BLストーリー前編
- 2013/10/22 20:18
- Category: BLショートストーリー
こんばんは!!今日一日篭って撮影し、やっと前編が完成しました~♪
SS枚数相当多いので、お時間のあるときに読んで下さると嬉しいです!
注意
☆BLオンリーのストーリーです
☆中二病全開な設定です
☆アダルトシーンがあります(けっこうガンガンいってます)
苦手なものが一つでもある方は閲覧をお控えくださいね^^
アルベルトのドSターンは後半になります(笑)前半はおとなしいです。そして後半でも鞭は出てきませんww(拍手コメントでアルベルトが鞭・・・って言うのがあったのでww期待に沿えず申し訳アリマセン!w)
ではでは本編どうぞ!!
「そこに散らかった本を本棚に戻しておいてくれるかな。一人だとなかなか骨の折れる作業でね」
「わかりました。教授の戻ってくる時間までには・・・なんとか」
「気に入った本があったらあとで読んでもらって構わない。それじゃ、あとは頼んだよ」
教授はそう言って部屋を後にした。

ここは教授の部屋だ。歴史の専門家でもある教授の部屋はいつの時代かわからないような古い本も沢山並んでいる。それらが床や机の上に乱雑に置かれていて、それらの本を読んで見たいと思っていた俺に教授は「交換条件」を付きつけてきた。
好きなだけ本を読んで構わない。その代わり時間のない教授に替わって本の整理をすること。
その程度のことでここの本を自由に読めるのならお安い御用だと引き受けたものの、教授の端正な顔からは想像できないほど部屋の中は散らかり放題だ。

「・・・よしっ。やるか!」
教授が授業から戻ってくる間にある程度綺麗にしておかないとな。
俺は腕まくりして近くの本を拾い上げ、壁一面に広がっている本棚に戻していく。

単純な作業のように見えるがただ本棚に突っ込んでいく訳ではなく、前後の本の年代を考えながら戻していくのはけっこうな時間がかかる。歴史が好きとは言え俺はただの大学生だ。どこに戻していいかわからないくなることも多くて作業は遅々として進まない。

「ん・・・?」

俺が手元に拾い上げた古い本。ひどく埃をかぶっていて、それはかなり古いものだとわかる。
一見普通の本なのに、何故か俺はその本に惹かれた。
パラパラとその本をめくっていくと、その本は中世の時代のお話のようだ。伝承というような類だろうか。

塔に閉じ込められた悪魔と呼ばれている男の話が俺の目に飛び込んでくる。
生れ落ちたときからその塔に閉じ込められ、そこで一生を終える哀れな男の話だ。

読み進めていくうちに、俺の中に奇妙な感覚が広がっていく。
初めて読んだはずなのに、この話をまるで知っていたかのような既視感に囚われる。

・・・・・・・・・・・・。
これは・・・・俺のことだ。塔に囚われた男は・・・前世での俺。
まるで堰を切ったかのように次々と前世の忌まわしい記憶が蘇り、それと同時にひどい頭痛が俺を襲った。


その当時黒髪と赤い目を持つものは悪魔だと言われ、この世に生を受けたときから塔に幽閉された。
母親の顔も知らず、ただ塔の小さな窓から見える風景だけが俺のたった一つの世界で。

それでも生まれた時からそうやって生きていると外の世界を知らない分、不満などなかったように思う。
大切だったのは・・・一人の人間だけだった。
今日も俺に会いに来てくれるたった一人の存在を待ち続けている。

「カイム」
窓の外をぼんやりと眺めていると背後から声がかかった。
俺をカイムと名付けてくれたのも、カイムと呼んでくれるのもこの声の主だけだ。
「レオン!!」

柔らかな茶色の髪。凛々しい顔立ち。レオンの全てが愛おしいと心の底から思う。
飼い主を待ち続けていた犬のように俺はレオンに走り寄った。

「何で来ないんだよ。俺、この間貰った本読んじゃって暇で暇でしょうがなかったんだからな」
再会の喜びが落ち着くと今度はなんだか自分のはしゃぎようが気恥ずかしくなって、ついつい憎まれ口を叩いてしまう。本なんかどうだっていいのに。ただレオンに会いたかっただけなのに。
「色々と忙しくて時間が取れなかったんだ。悪かった」
レオンはそんな俺も受け止めてくれる。優しいいつもの笑顔で。

レオンはこの地方の領主アルベルトに仕えている、ということは知っていた。使用人として仕えている訳ではなく、なんだか特別な存在のようで時間もある程度自由が利くらしい。その辺りのことはレオンに聞いても曖昧に笑うだけでいつも答えてくれないのだ。

「新しい本をいくつか持ってきた。ここにおいてくからまた読んでおきなさい」

本なんか。
レオンと次に会うまでの時間つぶしにしかならないのに。
久々に会えたというのに、そんなことしか言ってくれないレオンに腹を立てる。

「本よりも・・・レオンが側にいてくれた方がいいのに」
言ってはいけないことだと分かっていてもつい口に出てしまう。
もっと長い時間レオンと一緒にいたい。叶わぬ願いだからこそ、それに俺は激しく惹かれてしまうのだ。

「随分と甘え上手になったな。俺を困らせないでくれ」
そう言いながらもちっとも困った様子などなく、レオンは笑っているだけだ。
俺が子供の頃からその扱いが変わらないことが俺の不満になっている。
もっと俺の言葉一つで心を乱して欲しいと思うのに、レオンはいつだって冷静なままで。
「そろそろ戻るよ」

「もう戻るのか?!まだ来たばかりだろ?もうちょっと一緒に・・・いろよ!」
「今日は城に来客があるんだ。その対応をしなければいけないんだよ」
噛んで含めるような言い方に俺は更に苛立つ。
これじゃまるで俺が子供の頃に勉強を教えてくれていたときと変わらないじゃないか。
俺達はもう・・・違う関係のはずなのに。

そうは思っても口に出せず拗ねる俺にレオンはそっと唇を重ねてくる。

「またすぐ来る。その時は・・・・」
低く掠れたようなレオンの声音が俺の耳朶をくすぐる。

その時は。
その言葉の続きが聞きたいと思うのに、レオンはもう一度軽くキスをするといつもの笑顔のまま部屋を出て行ってしまった。

俺とレオンの関係が変わったのはほんの数ヶ月前だ。
赤ん坊の頃からここに閉じ込められていると知って不憫に思ったらしいレオンが、子供の俺に勉強や外の世界のことを教えてくれるようになった。
俺が大きくなってからも寂しくならないようにと頻繁に顔を見せてくれていたレオンを特別な存在に思うのはごく自然なことだったと思う。俺にはレオンのほかに誰もいないのだから。

俺の仕掛けたキスをレオンは受け入れて、そしてそのまま俺達は・・・。



それ以来俺達の関係は少しだけ変わった。
レオンが来て時折俺を抱く。その変化は小さな頃からずっとレオンを好きだった俺にとって幸せを感じさせてくれる。
そしてそれと同時に今まで見ないフリをしてきた沢山のことを意識せざるを得なくなった。
レオンにとっての領主アルベルトの存在は一体どういうものなのか。
俺と時間を過ごしてもレオンは結局アルベルトの元に帰っていく。それを思うたびに胸にちりちりとした痛みが走る。

そして時が止まったように20年前とまるで変わらないレオンの姿。
聞きたくても聞けないことばかりで、俺はいつもそこから目を背けてしまう。
大事なことがそこに潜んでいることを知りながらも、真実を知ったらこの小さな幸せが壊れてしまうこともぼんやりと分かっていた。

領主アルベルト。その名前を人々は畏怖を込めて呼ぶ。

気に入らなければ部下をも手にかけるこの男にはある逸話があった。
30年ほどまえのことだ。アルベルトと同盟を結んでいた領主が敵対する勢力に暗殺されるという事件が起こった。その領主を可愛がっていたアルベルトの逆鱗に触れ、暗殺を企てたものたちは一人残らず殺された。子供や女も容赦しないその残忍なやり方に人々は震え上がり、アルベルトに反抗するものは誰一人としていなくなったのだった。

「戻りました」
俺はそのアルベルトに仕えている。仕えているとは言ってもこれといった仕事はなく、ただアルベルト話相手をする程度のものだったが、アルベルトは俺が自分の側から離れることをひどく嫌っていた。

「またあの塔に行っていたのか。よほど気に入っていると見えるな」
生まれながらにしての支配者であるアルベルトは傲岸で尊大ですらある。だがそれがこの男の持つ端正で冷たい容姿にぴたりとあてはまる。
「・・・申し訳ありません」

この男に仕えてもう30年。何かを意見しようとしたこともある。あの頃の俺はまだ・・・気持ちを捨て切れなかったのだと今になってわかる。氷のように冷たいこの男を変えようとしていた自分の愚かさ。
今はもう何も考えずただ従うだけだ。

「まあいい。今日は来客が多い。俺の側にいろ」

「了解しました」
そう言って頭を垂れる俺にアルベルトの視線が強く注がれていることに気が付く。
血の通わないこの男が見せる唯一の感情らしきもの。
俺を見つめる視線の中だけにそれは存在する。

アルベルトはこの体の持ち主・・・・30年前に暗殺された同盟を結んでいた領主レオンに特別な感情を持っていた。それが叶うことのない想いだったことは、視線の強さで分かる。
領主レオンが死んだ時、アルベルトはある決意をする。
レオンをこの世に蘇らせる為に悪魔と契約することを選んだ。
自分自身が悪魔となり、その力を用いてレオンを蘇らせた。肉体は蘇っても魂までは戻らない。それを知っていたはずなのに、アルベルトは蘇ってレオンとなった俺に「生前のレオン」を重ねる。
言葉には出さないが、アルベルトが求めていたのは俺ではなく「生前のレオン」なのだ。

それに気が付いた時、俺の中の何かが壊れた。
自分は誰からも望まれていない存在だと。俺を作ったアルベルトすら「俺」という存在を認めてくれることはないだろう。俺は単なるレオンという外箱を動かすものに過ぎない。
絶望に打ちひしがれている時あの塔に閉じ込められているカイムと出会った。
実の親からも引き離され、誰にも理解されずひっそりと塔の中だけで生きている少年に出会ったとき
まるで自分を見つけたような気さえした。
互いの感じる孤独を舐めあうように俺とカイムは惹かれあった。

カイムと過ごす時間だけが「レオン」ではなく「俺」に戻れる唯一の時間になり、俺は強くカイムを愛おしいと思うようになっていった。
カイムの側にいたい。その想いは俺も同じなのだ。
だが「俺」という存在を作ったアルベルトの怒りを買えば俺は消されてしまうだろう。
アルベルトの目を盗むようにして俺は塔に通うほかに手立てはなかった・・・・。

「お前もかわいそうだよな・・・。ただ単に髪が黒くて眼が赤いばっかりにこんなとこに一生縛り付けられてよ・・・」
最近入った新しい看守のエリクは俺と年齢が近いこともあり、よくこうして話をする。
看守という言葉は厳しいが、とりあえず俺がこの塔から逃げないようなお目付け役のようなものらしい。
生まれた時からここしか知らない俺が、ここから逃げられるわけもないのにといつも思うがたった一人でこの塔にいるよりは看守がいてくれた方がマシだ。

「外の世界を知らないから、俺はあんまり自分が不幸だと思ったことはないな」
不幸だとか、不幸せだと感じるのは自分の見知ったものとの比較になるということを俺は最近ぼんやりと理解していた。比較の対象になるものがないのだから、不幸だと思うこともない。

「そういうもんなのか。でも女の子と付きあえないだろ?俺だったら絶望する!」
「じゃあ聞くけどさ。外の世界にいるエリクは女の子と付き合ってるのかよ?」

「・・・・・・・。お前それを言っちゃーおしまいだぜ・・・」
エリクはみるみるうちにしょげていく。そう風采が悪い男でもないのに、何故か女の子と縁がないらしい。

「俺はレオンがいればそれでいい」
俺とレオンの関係をうっすらと分かっているらしいエリクが言いにくそうに口を開いた。

「あのさ・・・お前知ってるのか?レオンのこと」
「知ってるって何を?」
「アルベルト様に作られた存在だってことをだよ。お前もおかしいと思わねえの?ずっと歳をとらずに若いままなんだぜ?」
アルベルトに作られた・・・・存在?衝撃的な言葉すぎて俺の頭では理解できない。
「それ・・・どういうことだ?」
「知って後悔するかもしれないからやめとけ」

「ここまで聞いておいて知らない振りできるかよ!!何だよ?全部話せって!」
俺の強い剣幕に押されて、仕方ないというような表情でエリクが語り始めた話。
到底俺に理解できるようなことではなかった。
アルベルトは悪魔で。
レオンは30年前に死んだ領主でアルベルトの力で蘇った。
だから二人とも歳を取らずずっと若いままの姿でいられるのだと。
そんなことでたらめだと言い返したかったのに、レオンの変わらぬ容貌に気が付いていた俺はそれを事実だと受け止めざるを得なかった。

「そんな・・・・。じゃあレオンは30年前に死んだ領主ってことなのかよ?!」
「俺もそんな詳しくは知らねーけど・・・。体は蘇っても魂までは一緒に蘇らないものらしいぜ」

「・・・じゃあレオンと30年前に死んだ領主とはまた別人格ってことか?」
「そういうことになるんじゃねーの?ま、そういう風に人がうわさしてるってだけだから。気にすんなよ」
そう言ってエリクは部屋を出て行った。

頭が上手くまとまらない。
なのに、胸の中にはアルベルトという男に対して激しい嫉妬心が湧き上がってくるのを抑えきれずにいた。
悪魔と契約して自分自身が悪魔になってでも、レオンを蘇らせたかった。そこにアルベルトの強い感情が見える。レオンのことを・・・きっと・・・アルベルトは・・・。
そう思ったらいてもたってもいられない気持ちになる。

自分という存在を作り出してくれたアルベルトに対してレオンは邪険にできるわけがない。
二人の関係を想像する度に胸が張り裂けそうになる。
レオンがアルベルトを大事に思っていたら・・・?
俺よりもアルベルトを好きだとしたら・・・?

そう考えると眠りにつくこともできず、俺はただ窓の外を見つめていた。

夜が明けた。
外が明るくなっていく様を俺は見つめている。
扉がゆっくりと開き、俺が待ち望んでいた相手が来たとわかっているのにそのまま動けずにいた。

「・・・カイム、どうかしたのか?」
いつもと変わらない優しい声なのに、今日はそれが違って聞こえる。
返事もせず、振り返りもしない俺の側にレオンがゆっくりと近付く。
「一体どうした?何かあったか」

「・・・・・・・アルベルトとレオンのこと、全部聞いた」
俺の言葉にレオンの体が硬くなるのが分かる。その動きだけでエリクに聞いたことが全部真実だと俺は直感する。

「アルベルトと・・・どういう関係なんだよっ?!俺より大事な存在なんだろ?だからいつだって俺よりもアルベルトを優先させてるんだよなっ?!」
自分の感情を抑えきれずにレオンに食ってかかる。俺にはレオンしかいないのに。レオンには俺より大事な存在がある。そう思うだけで全身が怒りと嫉妬で熱くなっていく。

「落ち着け・・・。俺とアルベルトはお前が思うような関係じゃない」
俺の両手を押さえ込み、まっすぐにこちらを見つめてくるレオン。
「嘘をつくなよ!!いつだってあの男のところに帰るじゃないか!!」

「嘘はついていない」
「俺よりもアルベルトの方がっ・・・」
初めての嫉妬という強い感情で荒れる俺の唇を、レオンが強く吸った。


ただそれだけの行為なのに、自分の怒りがゆっくりと溶けて行くのを感じてどれだけ自分がレオンを好きなのかまた思い知らされてしまう。
深いキスの間に俺の体から力が抜け、レオンがそんな俺を強く抱きしめた。

「俺は・・・アルベルトに造られた存在だ。アルベルトの怒りを買えば・・・・この世から消される」
「レオン・・・」
切なげなレオンの声に俺はもう何も言えずにいた。

アルベルトとは「生前のレオン」は何か関係があったかもしれない。でも今俺のことを抱いているレオンはアルベルトに特別の感情を抱いてはいないということが伝わったから。

「お前は・・・俺が怖くないのか。俺は普通の人間じゃないんだぞ」
俺の顔を覗き込みながら不安げにレオンが尋ねる。
「怖いなんて思ったことない。俺はただ・・・。今のレオンを失うことのほうが怖いんだ」
そう言った俺の顔をレオンが愛しげに触れた。

「俺が好きなのは・・・大事に思っているのはお前だけだ。カイム」
その言葉が引き金となって俺達は強く抱き合った。


「カイム・・・・」
俺の名を呼ぶたった一人だけの愛しい存在。
触れている肌が邪魔に感じてしまうほどにただ一つになりたいと強く願う。

レオンがどんな過去を持っていても構わない。
今俺だけを求めてくれているレオンを信じている。
堪えきれずに俺が切ない声をあげると、レオンが一層深く俺の中に身を沈める。

この瞬間だけはレオンはアルベルトのものじゃない。俺だけのものになる。
「愛している」
そう言ったのが自分だったのかレオンだったのか。

思い出すことすらできないほど熱が上がった体で俺はレオンを求め続けた。
後編に続く
SS枚数相当多いので、お時間のあるときに読んで下さると嬉しいです!
注意
☆BLオンリーのストーリーです
☆中二病全開な設定です
☆アダルトシーンがあります(けっこうガンガンいってます)
苦手なものが一つでもある方は閲覧をお控えくださいね^^
アルベルトのドSターンは後半になります(笑)前半はおとなしいです。そして後半でも鞭は出てきませんww(拍手コメントでアルベルトが鞭・・・って言うのがあったのでww期待に沿えず申し訳アリマセン!w)
ではでは本編どうぞ!!
「そこに散らかった本を本棚に戻しておいてくれるかな。一人だとなかなか骨の折れる作業でね」
「わかりました。教授の戻ってくる時間までには・・・なんとか」
「気に入った本があったらあとで読んでもらって構わない。それじゃ、あとは頼んだよ」
教授はそう言って部屋を後にした。

ここは教授の部屋だ。歴史の専門家でもある教授の部屋はいつの時代かわからないような古い本も沢山並んでいる。それらが床や机の上に乱雑に置かれていて、それらの本を読んで見たいと思っていた俺に教授は「交換条件」を付きつけてきた。
好きなだけ本を読んで構わない。その代わり時間のない教授に替わって本の整理をすること。
その程度のことでここの本を自由に読めるのならお安い御用だと引き受けたものの、教授の端正な顔からは想像できないほど部屋の中は散らかり放題だ。

「・・・よしっ。やるか!」
教授が授業から戻ってくる間にある程度綺麗にしておかないとな。
俺は腕まくりして近くの本を拾い上げ、壁一面に広がっている本棚に戻していく。

単純な作業のように見えるがただ本棚に突っ込んでいく訳ではなく、前後の本の年代を考えながら戻していくのはけっこうな時間がかかる。歴史が好きとは言え俺はただの大学生だ。どこに戻していいかわからないくなることも多くて作業は遅々として進まない。

「ん・・・?」

俺が手元に拾い上げた古い本。ひどく埃をかぶっていて、それはかなり古いものだとわかる。
一見普通の本なのに、何故か俺はその本に惹かれた。
パラパラとその本をめくっていくと、その本は中世の時代のお話のようだ。伝承というような類だろうか。

塔に閉じ込められた悪魔と呼ばれている男の話が俺の目に飛び込んでくる。
生れ落ちたときからその塔に閉じ込められ、そこで一生を終える哀れな男の話だ。

読み進めていくうちに、俺の中に奇妙な感覚が広がっていく。
初めて読んだはずなのに、この話をまるで知っていたかのような既視感に囚われる。

・・・・・・・・・・・・。
これは・・・・俺のことだ。塔に囚われた男は・・・前世での俺。
まるで堰を切ったかのように次々と前世の忌まわしい記憶が蘇り、それと同時にひどい頭痛が俺を襲った。


その当時黒髪と赤い目を持つものは悪魔だと言われ、この世に生を受けたときから塔に幽閉された。
母親の顔も知らず、ただ塔の小さな窓から見える風景だけが俺のたった一つの世界で。

それでも生まれた時からそうやって生きていると外の世界を知らない分、不満などなかったように思う。
大切だったのは・・・一人の人間だけだった。
今日も俺に会いに来てくれるたった一人の存在を待ち続けている。

「カイム」
窓の外をぼんやりと眺めていると背後から声がかかった。
俺をカイムと名付けてくれたのも、カイムと呼んでくれるのもこの声の主だけだ。
「レオン!!」

柔らかな茶色の髪。凛々しい顔立ち。レオンの全てが愛おしいと心の底から思う。
飼い主を待ち続けていた犬のように俺はレオンに走り寄った。

「何で来ないんだよ。俺、この間貰った本読んじゃって暇で暇でしょうがなかったんだからな」
再会の喜びが落ち着くと今度はなんだか自分のはしゃぎようが気恥ずかしくなって、ついつい憎まれ口を叩いてしまう。本なんかどうだっていいのに。ただレオンに会いたかっただけなのに。
「色々と忙しくて時間が取れなかったんだ。悪かった」
レオンはそんな俺も受け止めてくれる。優しいいつもの笑顔で。

レオンはこの地方の領主アルベルトに仕えている、ということは知っていた。使用人として仕えている訳ではなく、なんだか特別な存在のようで時間もある程度自由が利くらしい。その辺りのことはレオンに聞いても曖昧に笑うだけでいつも答えてくれないのだ。

「新しい本をいくつか持ってきた。ここにおいてくからまた読んでおきなさい」

本なんか。
レオンと次に会うまでの時間つぶしにしかならないのに。
久々に会えたというのに、そんなことしか言ってくれないレオンに腹を立てる。

「本よりも・・・レオンが側にいてくれた方がいいのに」
言ってはいけないことだと分かっていてもつい口に出てしまう。
もっと長い時間レオンと一緒にいたい。叶わぬ願いだからこそ、それに俺は激しく惹かれてしまうのだ。

「随分と甘え上手になったな。俺を困らせないでくれ」
そう言いながらもちっとも困った様子などなく、レオンは笑っているだけだ。
俺が子供の頃からその扱いが変わらないことが俺の不満になっている。
もっと俺の言葉一つで心を乱して欲しいと思うのに、レオンはいつだって冷静なままで。
「そろそろ戻るよ」

「もう戻るのか?!まだ来たばかりだろ?もうちょっと一緒に・・・いろよ!」
「今日は城に来客があるんだ。その対応をしなければいけないんだよ」
噛んで含めるような言い方に俺は更に苛立つ。
これじゃまるで俺が子供の頃に勉強を教えてくれていたときと変わらないじゃないか。
俺達はもう・・・違う関係のはずなのに。

そうは思っても口に出せず拗ねる俺にレオンはそっと唇を重ねてくる。

「またすぐ来る。その時は・・・・」
低く掠れたようなレオンの声音が俺の耳朶をくすぐる。

その時は。
その言葉の続きが聞きたいと思うのに、レオンはもう一度軽くキスをするといつもの笑顔のまま部屋を出て行ってしまった。

俺とレオンの関係が変わったのはほんの数ヶ月前だ。
赤ん坊の頃からここに閉じ込められていると知って不憫に思ったらしいレオンが、子供の俺に勉強や外の世界のことを教えてくれるようになった。
俺が大きくなってからも寂しくならないようにと頻繁に顔を見せてくれていたレオンを特別な存在に思うのはごく自然なことだったと思う。俺にはレオンのほかに誰もいないのだから。

俺の仕掛けたキスをレオンは受け入れて、そしてそのまま俺達は・・・。



それ以来俺達の関係は少しだけ変わった。
レオンが来て時折俺を抱く。その変化は小さな頃からずっとレオンを好きだった俺にとって幸せを感じさせてくれる。
そしてそれと同時に今まで見ないフリをしてきた沢山のことを意識せざるを得なくなった。
レオンにとっての領主アルベルトの存在は一体どういうものなのか。
俺と時間を過ごしてもレオンは結局アルベルトの元に帰っていく。それを思うたびに胸にちりちりとした痛みが走る。

そして時が止まったように20年前とまるで変わらないレオンの姿。
聞きたくても聞けないことばかりで、俺はいつもそこから目を背けてしまう。
大事なことがそこに潜んでいることを知りながらも、真実を知ったらこの小さな幸せが壊れてしまうこともぼんやりと分かっていた。

領主アルベルト。その名前を人々は畏怖を込めて呼ぶ。

気に入らなければ部下をも手にかけるこの男にはある逸話があった。
30年ほどまえのことだ。アルベルトと同盟を結んでいた領主が敵対する勢力に暗殺されるという事件が起こった。その領主を可愛がっていたアルベルトの逆鱗に触れ、暗殺を企てたものたちは一人残らず殺された。子供や女も容赦しないその残忍なやり方に人々は震え上がり、アルベルトに反抗するものは誰一人としていなくなったのだった。

「戻りました」
俺はそのアルベルトに仕えている。仕えているとは言ってもこれといった仕事はなく、ただアルベルト話相手をする程度のものだったが、アルベルトは俺が自分の側から離れることをひどく嫌っていた。

「またあの塔に行っていたのか。よほど気に入っていると見えるな」
生まれながらにしての支配者であるアルベルトは傲岸で尊大ですらある。だがそれがこの男の持つ端正で冷たい容姿にぴたりとあてはまる。
「・・・申し訳ありません」

この男に仕えてもう30年。何かを意見しようとしたこともある。あの頃の俺はまだ・・・気持ちを捨て切れなかったのだと今になってわかる。氷のように冷たいこの男を変えようとしていた自分の愚かさ。
今はもう何も考えずただ従うだけだ。

「まあいい。今日は来客が多い。俺の側にいろ」

「了解しました」
そう言って頭を垂れる俺にアルベルトの視線が強く注がれていることに気が付く。
血の通わないこの男が見せる唯一の感情らしきもの。
俺を見つめる視線の中だけにそれは存在する。

アルベルトはこの体の持ち主・・・・30年前に暗殺された同盟を結んでいた領主レオンに特別な感情を持っていた。それが叶うことのない想いだったことは、視線の強さで分かる。
領主レオンが死んだ時、アルベルトはある決意をする。
レオンをこの世に蘇らせる為に悪魔と契約することを選んだ。
自分自身が悪魔となり、その力を用いてレオンを蘇らせた。肉体は蘇っても魂までは戻らない。それを知っていたはずなのに、アルベルトは蘇ってレオンとなった俺に「生前のレオン」を重ねる。
言葉には出さないが、アルベルトが求めていたのは俺ではなく「生前のレオン」なのだ。

それに気が付いた時、俺の中の何かが壊れた。
自分は誰からも望まれていない存在だと。俺を作ったアルベルトすら「俺」という存在を認めてくれることはないだろう。俺は単なるレオンという外箱を動かすものに過ぎない。
絶望に打ちひしがれている時あの塔に閉じ込められているカイムと出会った。
実の親からも引き離され、誰にも理解されずひっそりと塔の中だけで生きている少年に出会ったとき
まるで自分を見つけたような気さえした。
互いの感じる孤独を舐めあうように俺とカイムは惹かれあった。

カイムと過ごす時間だけが「レオン」ではなく「俺」に戻れる唯一の時間になり、俺は強くカイムを愛おしいと思うようになっていった。
カイムの側にいたい。その想いは俺も同じなのだ。
だが「俺」という存在を作ったアルベルトの怒りを買えば俺は消されてしまうだろう。
アルベルトの目を盗むようにして俺は塔に通うほかに手立てはなかった・・・・。

「お前もかわいそうだよな・・・。ただ単に髪が黒くて眼が赤いばっかりにこんなとこに一生縛り付けられてよ・・・」
最近入った新しい看守のエリクは俺と年齢が近いこともあり、よくこうして話をする。
看守という言葉は厳しいが、とりあえず俺がこの塔から逃げないようなお目付け役のようなものらしい。
生まれた時からここしか知らない俺が、ここから逃げられるわけもないのにといつも思うがたった一人でこの塔にいるよりは看守がいてくれた方がマシだ。

「外の世界を知らないから、俺はあんまり自分が不幸だと思ったことはないな」
不幸だとか、不幸せだと感じるのは自分の見知ったものとの比較になるということを俺は最近ぼんやりと理解していた。比較の対象になるものがないのだから、不幸だと思うこともない。

「そういうもんなのか。でも女の子と付きあえないだろ?俺だったら絶望する!」
「じゃあ聞くけどさ。外の世界にいるエリクは女の子と付き合ってるのかよ?」

「・・・・・・・。お前それを言っちゃーおしまいだぜ・・・」
エリクはみるみるうちにしょげていく。そう風采が悪い男でもないのに、何故か女の子と縁がないらしい。

「俺はレオンがいればそれでいい」
俺とレオンの関係をうっすらと分かっているらしいエリクが言いにくそうに口を開いた。

「あのさ・・・お前知ってるのか?レオンのこと」
「知ってるって何を?」
「アルベルト様に作られた存在だってことをだよ。お前もおかしいと思わねえの?ずっと歳をとらずに若いままなんだぜ?」
アルベルトに作られた・・・・存在?衝撃的な言葉すぎて俺の頭では理解できない。
「それ・・・どういうことだ?」
「知って後悔するかもしれないからやめとけ」

「ここまで聞いておいて知らない振りできるかよ!!何だよ?全部話せって!」
俺の強い剣幕に押されて、仕方ないというような表情でエリクが語り始めた話。
到底俺に理解できるようなことではなかった。
アルベルトは悪魔で。
レオンは30年前に死んだ領主でアルベルトの力で蘇った。
だから二人とも歳を取らずずっと若いままの姿でいられるのだと。
そんなことでたらめだと言い返したかったのに、レオンの変わらぬ容貌に気が付いていた俺はそれを事実だと受け止めざるを得なかった。

「そんな・・・・。じゃあレオンは30年前に死んだ領主ってことなのかよ?!」
「俺もそんな詳しくは知らねーけど・・・。体は蘇っても魂までは一緒に蘇らないものらしいぜ」

「・・・じゃあレオンと30年前に死んだ領主とはまた別人格ってことか?」
「そういうことになるんじゃねーの?ま、そういう風に人がうわさしてるってだけだから。気にすんなよ」
そう言ってエリクは部屋を出て行った。

頭が上手くまとまらない。
なのに、胸の中にはアルベルトという男に対して激しい嫉妬心が湧き上がってくるのを抑えきれずにいた。
悪魔と契約して自分自身が悪魔になってでも、レオンを蘇らせたかった。そこにアルベルトの強い感情が見える。レオンのことを・・・きっと・・・アルベルトは・・・。
そう思ったらいてもたってもいられない気持ちになる。

自分という存在を作り出してくれたアルベルトに対してレオンは邪険にできるわけがない。
二人の関係を想像する度に胸が張り裂けそうになる。
レオンがアルベルトを大事に思っていたら・・・?
俺よりもアルベルトを好きだとしたら・・・?

そう考えると眠りにつくこともできず、俺はただ窓の外を見つめていた。

夜が明けた。
外が明るくなっていく様を俺は見つめている。
扉がゆっくりと開き、俺が待ち望んでいた相手が来たとわかっているのにそのまま動けずにいた。

「・・・カイム、どうかしたのか?」
いつもと変わらない優しい声なのに、今日はそれが違って聞こえる。
返事もせず、振り返りもしない俺の側にレオンがゆっくりと近付く。
「一体どうした?何かあったか」

「・・・・・・・アルベルトとレオンのこと、全部聞いた」
俺の言葉にレオンの体が硬くなるのが分かる。その動きだけでエリクに聞いたことが全部真実だと俺は直感する。

「アルベルトと・・・どういう関係なんだよっ?!俺より大事な存在なんだろ?だからいつだって俺よりもアルベルトを優先させてるんだよなっ?!」
自分の感情を抑えきれずにレオンに食ってかかる。俺にはレオンしかいないのに。レオンには俺より大事な存在がある。そう思うだけで全身が怒りと嫉妬で熱くなっていく。

「落ち着け・・・。俺とアルベルトはお前が思うような関係じゃない」
俺の両手を押さえ込み、まっすぐにこちらを見つめてくるレオン。
「嘘をつくなよ!!いつだってあの男のところに帰るじゃないか!!」

「嘘はついていない」
「俺よりもアルベルトの方がっ・・・」
初めての嫉妬という強い感情で荒れる俺の唇を、レオンが強く吸った。


ただそれだけの行為なのに、自分の怒りがゆっくりと溶けて行くのを感じてどれだけ自分がレオンを好きなのかまた思い知らされてしまう。
深いキスの間に俺の体から力が抜け、レオンがそんな俺を強く抱きしめた。

「俺は・・・アルベルトに造られた存在だ。アルベルトの怒りを買えば・・・・この世から消される」
「レオン・・・」
切なげなレオンの声に俺はもう何も言えずにいた。

アルベルトとは「生前のレオン」は何か関係があったかもしれない。でも今俺のことを抱いているレオンはアルベルトに特別の感情を抱いてはいないということが伝わったから。

「お前は・・・俺が怖くないのか。俺は普通の人間じゃないんだぞ」
俺の顔を覗き込みながら不安げにレオンが尋ねる。
「怖いなんて思ったことない。俺はただ・・・。今のレオンを失うことのほうが怖いんだ」
そう言った俺の顔をレオンが愛しげに触れた。

「俺が好きなのは・・・大事に思っているのはお前だけだ。カイム」
その言葉が引き金となって俺達は強く抱き合った。


「カイム・・・・」
俺の名を呼ぶたった一人だけの愛しい存在。
触れている肌が邪魔に感じてしまうほどにただ一つになりたいと強く願う。

レオンがどんな過去を持っていても構わない。
今俺だけを求めてくれているレオンを信じている。
堪えきれずに俺が切ない声をあげると、レオンが一層深く俺の中に身を沈める。

この瞬間だけはレオンはアルベルトのものじゃない。俺だけのものになる。
「愛している」
そう言ったのが自分だったのかレオンだったのか。

思い出すことすらできないほど熱が上がった体で俺はレオンを求め続けた。
後編に続く