chapter29
- 2013/12/26 17:21
- Category: Story
こんにちは♪
今日は予告通りstoryの更新になります^^
年内最後の更新になると思いますので、storyが終わったあとに
ご挨拶させていただきますね!
ではでは本編スタートです。
夢を見ていた。
夢は自分の深層心理を映し出す鏡とも言われているらしいが、私の中の不安を表したかのように
辛かった時の夢ばかり見る。

夢の中の私は幼い頃の姿のままだ。
辛いことがあっても自分の力ではどうにもできなかったあの頃。
母は優しくて美しい人だった。

もともとそれなりの家柄のお嬢様だったが、それがあの男ジェフの獲物を狙う嗅覚にひっかかってしまったらしい。
同じ階級の上品な男たちしか知らなかった母を陥落させることはジゴロのジェフにはたやすいことだった。
母から理由をつけては金を巻き上げる段階に行くまでさほど時間も手間もかからなかっただろう。
ただ2つ、ジェフには計算外のことを母はやってのけた。

ジェフを愛するあまり母は見合いを推し進めようとしていた家を飛び出し、金になるようなもの・・・指輪やネックレス、宝石などの小さな金目のものを持ってジェフのもとへ飛び込んだ。
そしてもう一つの小さな秘密。それは母のお腹の中に宿っていた新しい命・・・私の存在をジェフに告げた。

ジェフはこの時何を思ったのだろうか。それは私にも分からない。
ただ母を追い払うようなマネはしなかった。
母はそれを自分への愛だと思っているようだったが、きっと違う。
母の手の中にある宝石に目がくらんだだけだ。
この女からはまだ吸い取れる。あの寄生虫のような男はきっとそう思ったに違いない。

やがて私が生まれ1歳の誕生日を迎える頃、母が売るべきものがなくなった。ジェフがまともに金を稼いでくるはずもなく、途端に生活は困窮する。
母が持ってきた宝飾品の数々はかなりの金額になったはずだったがジェフ・・・私の父は節約などという言葉とは無縁に生きてきた男だ。
金がなくなったら新しい女に取り入ればいい。そしてそれがいつでもできてしまうほどジェフの容貌は端正で女を喜ばせる術にも長けていた。

どういう結末になるかは火を見るより明らかなことだった。
世間知らずの母とその幼い娘は捨てられ、苦しい生活を送ることになる。

「シャロンは本当に可愛い。パパにそっくりだわ」
母は私の髪を優しく撫でながら父の姿を思い出したようにうっとりとした表情になる。

この時の母が私は大嫌いだった。どうして自分を、そして娘である私を簡単に捨てた男を思い出して
そんな顔ができるのかと。
その父に似ているという自分すら嫌いになってしまいそうだった。

「パパなんていない。見たことないもの」
「あら。何度も写真で見せたでしょう?パパはとっても素敵な人だったのよ」
のんびりとした母の口調に私は苛立ちを募らせる。父親がいなくなって、頼るべき実家にも戻れず家事すらしたことのなかった母が私を育てるために一生懸命働いてくれることには感謝していた。
でもその原因を作ったのは父ではないか。どうしてその父を憎まないのか。

「素敵な人は家族を見捨てたりしないわ」
今でこそシングルマザーというのはそう珍しいことではないが、私の小さい頃はまだ「異端」だと思われていた時代だ。学校でそのことをからかわれることもあって、そんな時自分を捨てた顔も覚えていない父を激しく憎んでいた。

「シャロン。まわりからは色々言われるでしょう。そのことで貴方が辛い思いをしているのも知っているわ。でもパパのことを憎まないで。これはママからのお願いよ」

母の言葉に私は絶対に頷くものかとそっぽを向く。
この時の悲しそうな母の表情は今でもはっきりと思いだせる。

「お前は俺と同じだ。男から金を吸い取ってきただろう。俺と何一つ違ってはいないんだよ」
暗闇の中から父の声が聞こえる。

「私は・・・私はお母さんみたいになりたくなかった!ただ幸せになりたかっただけなのよ!貴方とは違うっ!!」
「その為に何をしてきた?金のある男に近付いて値踏みして、結局幸せになれずにいるじゃないか。まさしく俺の娘だよ。シャロン」

「違う!!私はあなたとは違うのよっ・・・・・・!!」

自分の上げた大声で目が覚めた。
ここは・・・自分の部屋だ。窓からは明るい日差しが出し込んでいる。
いやな夢・・・。

それから目覚めることのできた安堵感と同時に、ふとどうしてこんなところにいるのだろうという疑問が沸いて来た。
たしか私はギルバートに貰ったプレゼントを付き返すためにバーに行ったはず・・・。
そこからの記憶の糸を必死に手繰り寄せる。
飲んだカクテルからおかしな味がして急激に眠くなってそれから・・・。
私はギルバートに騙されたのだ。

「シャロン!!大丈夫なの?」
カレンとリサが部屋に飛び込んでくる。二人の表情があまりにもシリアスで、その表情から私は意識不明になってギルバートに弄ばれたあとここに運ばれたのだと思った。

「叫び声が聞こえたから起きたのかと思って来たのよ。・・・シャロン?」
「・・・大丈夫よ。私ギルバートに騙されたのね?」
「ギルバートに?違うわ。カイトが昨日の夜うちにシャロンを運んできてくれたのよ。それから医者を呼んでくれて・・・わけはシャロンから聞けって言われて何もしらないの。一体何があったの?」

カイトの名前を聞いた瞬間におぼろげながら蘇る記憶。
意識が混濁とした私の視界に一瞬だけカイトが見えた気がした。あれは・・・夢じゃなかったのね。
カイトは・・・私を助けてくれたんだ。
「・・・あのね。私ギルバートと別れるつもりだったの。その話をしにいったら飲みものに睡眠薬みたいなものを混ぜられてた。意識を失ったんだけどカイトが助けてくれたんだわ・・・」

「薬を盛ったですって?!あのプレゼント男、どこまで汚いのよ!!」
もともとギルバートに好意を持っていなかったカレンが憤りをあらわにする。
「カレン、そのことはあとでゆっくり話そう。まずはシャロンの体調のことが心配だから」

「ちょっと頭がぼうっとするくらいよ。大丈夫。先にカイトにお礼を言いに行きたいの。いい?」
ベットから立ち上がる私を二人は心配そうに見つめる。
足元がフラつくかと思ったけど、なんとか大丈夫そうだ。暫くすれば体から全ての薬が抜けて楽になるだろう。
「付いていこうか?心配だから」

「ううん、平気よ。一人で行ってちゃんとお礼をしたいから」
「わかったわ。でも何と言われようとあっちの家の玄関まではついていくからね」
カレンの有無を言わせない強い口調には優しさが滲んでいた。

「カイト、いる?」
カイトたちの家のドアはいつも無防備で夜以外鍵がかかっていない。扉を開けるとカイトが振り返った。

「大丈夫か」
「・・・うん。なんとか。あの・・・・」
今までカイトのことを煩わしいことを言う嫌なやつだと思ってた。でも嫌だと感じたのはきっと自分のやっていることを初めて真っ向から非難されたからだ。
他人のやることなんてまるで無関心なこの都会でカイト一人だけは違った。

「助けてくれて、ありがとう」
「とにかく無事なら良かった」
そこで一つの疑問が沸く。カイトはどうして私のことを助けられたのだろう?ギルバートといるところを見られたって恋愛関係があると思ったら私を助けることはしなかったはずだ。
「どうして私の様子が変だってわかったの」
その問いにカイトはいとも簡単に答える。

「ジェイクが言ってたんだ。シャロンは飲んでも飲まれるな、がモットーで男といる時は酒の量をセーブしてるって。だから泥酔しているお前を見たときすぐにおかしいと思った」
おかしいと分かったからすぐに助けてくれた。当たり前のことなのかもしれないけど、今までカイトとは顔を合わせる度に口論を繰り返してきた仲だ。
そのうち痛い目に合うぞ、と言っていたのに助けてくれるなんて。

「・・・お前もっと自分を大事にしろよ」
カイトの言葉が私の心の中の固くなったものをゆるやかに溶かしていく。

男なんて信じてなかった。信じたほうがバカをみると思っていたから。
男からはいつも優しい言葉をかけてもらえたけど、その言葉にはどれも下心が覗いていて結局男と女なんてそんなものだと思っていた。
だけど、カイトは違う。男と女、という前に人として私を心配してくれたのだ。
家族もない私にとってそれはどんな言葉より、心に染みた。

「なんで・・・泣いてるんだ」
カイトが驚いた表情で私を見つめた。そう言われて初めて自分の頬を濡らす涙に気が付く。
こんな所で泣いてはだめだと言い聞かせても涙は止まらない。

「だって・・・私・・・」
ひくっ、と子供のようにしゃくりあげてしまう。もう自分のコントロールできないところまで色々な感情が爆発してしまった。
ギルバートから助けてもらった安堵、そしてカイトの優しさ。
さまざまな感情が私の涙を後押しする。

困ったような表情を浮かべながら、カイトは私をそっと抱き寄せた。
その抱擁には男と女という生々しさは全くなく、ただ温かい。

「もう大丈夫だから。・・・泣くなよ」
耳元で聞こえるカイトの優しい声に私は子供のように声を上げて泣いた。
俺の膝で泣き疲れたシャロンがすやすやと眠っている。
まるで子供のようにしゃくりあげながら泣くシャロンに戸惑いながらも同時に彼女の弱さを知り愛おしい気持ちがこみ上げてくる。

出会いのときは最悪な女だと思っていた。そんなシャロンのことを気にしはじめたのはいつだっただろうか。バカンスの時?もっと前?
自分でも気が付かないほど自然にシャロンは俺の心の中に入り込んできた。

女のことを好きになったことは今までだって何度かあった。でもその時とはまるで違う。
「愛おしい」「大切にしたい」「守ってあげたい」
するりとそんな感情が出てくることに自分自身が戸惑う。

もう完全に俺の負けだな・・・・。
俺は小さく笑いながら彼女の髪を優しく撫でた。

「おっと・・・。邪魔したな」
二階で仕事をしていたレイが俺とシャロンの姿を見て勘違いしたらしい。再び2階へ上がろうとするのを俺は慌てて制止する。

「これは違う。勘違いするな」
「そう慌てるなよ。俺のいないときにしてくれたらもっと助かったけどな」
「だから違うって言ってるだろ・・・!」
シャロンを起こさないようになるべく声を抑えたつもりだったが、膝の上のシャロンがゆっくりと目を覚ました。

「・・・大丈夫か?」
起きたばかりで状況を把握していないぼんやりとした顔のシャロンは、子供のように無防備で思わず可愛いと思ってしまう。
俺とレイの顔に視線を走らせながらやっと今に至る状況を理解したようだ。

「私・・・帰るね。お邪魔しました」
そういうシャロンの頬がうっすらを赤みを帯びているように見えたのは俺の勘違いだろうか?
「まだぼーっとしてんだろ。家まで送る」
目と鼻の先とは言え、こんな状況のシャロンを一人にする気にはなれずソファから俺も立ち上がった。

「ううん。もう大丈夫だから、本当に」
シャロンは俺の申し出を断り、足早に家を出て行ってしまった。

・・・・・・。
気まずかったんだろうな。
普段強気な所しか見せなかったのにあんな姿を俺に見せたことが。
「なんだなんだ。お前の女性不信もどうやら終わりを告げそうじゃないか」
シャロンはいなくなった途端、レイがタバコに火をつけながら可笑しそうに笑う。

「お前な。そういう関係じゃないって言っただろ」
「あのじゃじゃ馬をどうやって飼いならしたのか教えてもらいたいところだ」
「そういう言い方はやめろ」
「人間ってのは自分の痛い所を突かれるとムキになるんだぜ」

「うるさい」
これ以上レイにからかいに付き合っていられるか。
俺は会話を打ち切るように視線を外した。

「おーーーい!!お前らっ!!」
扉が勢いよく開いて、ジェイクの大声が狭い部屋の中に響き渡る。全くいつも騒がしい奴だ。
「どうせお前らクリスマスの予定ないんだろ??」
「クリスマス・・・。もうそんな時期か」
「お前のことだ、どうせリサをクリスマスに誘えなくてみんなでって流れになったんだろ」

「カ、カイト!てめー余計なこと言うと誘ってやらねーぞ!」
ジェイクは全くもって詰めが甘い。
猪突猛進するくせに、肝心なポイントを抑えられないのはいつものことだった。

「レイ」
俺は隣のレイに顔を向ける。
「ん?」
「人間ってのは自分の痛いところを突かれるとムキになるっていうのは本当だな」
レイと俺は顔を見合わせながらニヤニヤと笑った。
chapter30へ続く
年内最後の更新でした~^^最後までみてくださって本当にありがとうございます。
今年は沢山のシム友さんが出来てとっても嬉しい一年でした^^
storyを読んでくださる方・コメントくださる方・拍手してくださる方
全ての皆様に感謝の気持ちでいっぱいです!
来年もまたどうぞヨよろしくお願い致します♪
今年一年ありがとうございました!!
今日は予告通りstoryの更新になります^^
年内最後の更新になると思いますので、storyが終わったあとに
ご挨拶させていただきますね!
ではでは本編スタートです。
夢を見ていた。
夢は自分の深層心理を映し出す鏡とも言われているらしいが、私の中の不安を表したかのように
辛かった時の夢ばかり見る。

夢の中の私は幼い頃の姿のままだ。
辛いことがあっても自分の力ではどうにもできなかったあの頃。
母は優しくて美しい人だった。

もともとそれなりの家柄のお嬢様だったが、それがあの男ジェフの獲物を狙う嗅覚にひっかかってしまったらしい。
同じ階級の上品な男たちしか知らなかった母を陥落させることはジゴロのジェフにはたやすいことだった。
母から理由をつけては金を巻き上げる段階に行くまでさほど時間も手間もかからなかっただろう。
ただ2つ、ジェフには計算外のことを母はやってのけた。

ジェフを愛するあまり母は見合いを推し進めようとしていた家を飛び出し、金になるようなもの・・・指輪やネックレス、宝石などの小さな金目のものを持ってジェフのもとへ飛び込んだ。
そしてもう一つの小さな秘密。それは母のお腹の中に宿っていた新しい命・・・私の存在をジェフに告げた。

ジェフはこの時何を思ったのだろうか。それは私にも分からない。
ただ母を追い払うようなマネはしなかった。
母はそれを自分への愛だと思っているようだったが、きっと違う。
母の手の中にある宝石に目がくらんだだけだ。
この女からはまだ吸い取れる。あの寄生虫のような男はきっとそう思ったに違いない。

やがて私が生まれ1歳の誕生日を迎える頃、母が売るべきものがなくなった。ジェフがまともに金を稼いでくるはずもなく、途端に生活は困窮する。
母が持ってきた宝飾品の数々はかなりの金額になったはずだったがジェフ・・・私の父は節約などという言葉とは無縁に生きてきた男だ。
金がなくなったら新しい女に取り入ればいい。そしてそれがいつでもできてしまうほどジェフの容貌は端正で女を喜ばせる術にも長けていた。

どういう結末になるかは火を見るより明らかなことだった。
世間知らずの母とその幼い娘は捨てられ、苦しい生活を送ることになる。

「シャロンは本当に可愛い。パパにそっくりだわ」
母は私の髪を優しく撫でながら父の姿を思い出したようにうっとりとした表情になる。

この時の母が私は大嫌いだった。どうして自分を、そして娘である私を簡単に捨てた男を思い出して
そんな顔ができるのかと。
その父に似ているという自分すら嫌いになってしまいそうだった。

「パパなんていない。見たことないもの」
「あら。何度も写真で見せたでしょう?パパはとっても素敵な人だったのよ」
のんびりとした母の口調に私は苛立ちを募らせる。父親がいなくなって、頼るべき実家にも戻れず家事すらしたことのなかった母が私を育てるために一生懸命働いてくれることには感謝していた。
でもその原因を作ったのは父ではないか。どうしてその父を憎まないのか。

「素敵な人は家族を見捨てたりしないわ」
今でこそシングルマザーというのはそう珍しいことではないが、私の小さい頃はまだ「異端」だと思われていた時代だ。学校でそのことをからかわれることもあって、そんな時自分を捨てた顔も覚えていない父を激しく憎んでいた。

「シャロン。まわりからは色々言われるでしょう。そのことで貴方が辛い思いをしているのも知っているわ。でもパパのことを憎まないで。これはママからのお願いよ」

母の言葉に私は絶対に頷くものかとそっぽを向く。
この時の悲しそうな母の表情は今でもはっきりと思いだせる。

「お前は俺と同じだ。男から金を吸い取ってきただろう。俺と何一つ違ってはいないんだよ」
暗闇の中から父の声が聞こえる。

「私は・・・私はお母さんみたいになりたくなかった!ただ幸せになりたかっただけなのよ!貴方とは違うっ!!」
「その為に何をしてきた?金のある男に近付いて値踏みして、結局幸せになれずにいるじゃないか。まさしく俺の娘だよ。シャロン」

「違う!!私はあなたとは違うのよっ・・・・・・!!」

自分の上げた大声で目が覚めた。
ここは・・・自分の部屋だ。窓からは明るい日差しが出し込んでいる。
いやな夢・・・。

それから目覚めることのできた安堵感と同時に、ふとどうしてこんなところにいるのだろうという疑問が沸いて来た。
たしか私はギルバートに貰ったプレゼントを付き返すためにバーに行ったはず・・・。
そこからの記憶の糸を必死に手繰り寄せる。
飲んだカクテルからおかしな味がして急激に眠くなってそれから・・・。
私はギルバートに騙されたのだ。

「シャロン!!大丈夫なの?」
カレンとリサが部屋に飛び込んでくる。二人の表情があまりにもシリアスで、その表情から私は意識不明になってギルバートに弄ばれたあとここに運ばれたのだと思った。

「叫び声が聞こえたから起きたのかと思って来たのよ。・・・シャロン?」
「・・・大丈夫よ。私ギルバートに騙されたのね?」
「ギルバートに?違うわ。カイトが昨日の夜うちにシャロンを運んできてくれたのよ。それから医者を呼んでくれて・・・わけはシャロンから聞けって言われて何もしらないの。一体何があったの?」

カイトの名前を聞いた瞬間におぼろげながら蘇る記憶。
意識が混濁とした私の視界に一瞬だけカイトが見えた気がした。あれは・・・夢じゃなかったのね。
カイトは・・・私を助けてくれたんだ。
「・・・あのね。私ギルバートと別れるつもりだったの。その話をしにいったら飲みものに睡眠薬みたいなものを混ぜられてた。意識を失ったんだけどカイトが助けてくれたんだわ・・・」

「薬を盛ったですって?!あのプレゼント男、どこまで汚いのよ!!」
もともとギルバートに好意を持っていなかったカレンが憤りをあらわにする。
「カレン、そのことはあとでゆっくり話そう。まずはシャロンの体調のことが心配だから」

「ちょっと頭がぼうっとするくらいよ。大丈夫。先にカイトにお礼を言いに行きたいの。いい?」
ベットから立ち上がる私を二人は心配そうに見つめる。
足元がフラつくかと思ったけど、なんとか大丈夫そうだ。暫くすれば体から全ての薬が抜けて楽になるだろう。
「付いていこうか?心配だから」

「ううん、平気よ。一人で行ってちゃんとお礼をしたいから」
「わかったわ。でも何と言われようとあっちの家の玄関まではついていくからね」
カレンの有無を言わせない強い口調には優しさが滲んでいた。

「カイト、いる?」
カイトたちの家のドアはいつも無防備で夜以外鍵がかかっていない。扉を開けるとカイトが振り返った。

「大丈夫か」
「・・・うん。なんとか。あの・・・・」
今までカイトのことを煩わしいことを言う嫌なやつだと思ってた。でも嫌だと感じたのはきっと自分のやっていることを初めて真っ向から非難されたからだ。
他人のやることなんてまるで無関心なこの都会でカイト一人だけは違った。

「助けてくれて、ありがとう」
「とにかく無事なら良かった」
そこで一つの疑問が沸く。カイトはどうして私のことを助けられたのだろう?ギルバートといるところを見られたって恋愛関係があると思ったら私を助けることはしなかったはずだ。
「どうして私の様子が変だってわかったの」
その問いにカイトはいとも簡単に答える。

「ジェイクが言ってたんだ。シャロンは飲んでも飲まれるな、がモットーで男といる時は酒の量をセーブしてるって。だから泥酔しているお前を見たときすぐにおかしいと思った」
おかしいと分かったからすぐに助けてくれた。当たり前のことなのかもしれないけど、今までカイトとは顔を合わせる度に口論を繰り返してきた仲だ。
そのうち痛い目に合うぞ、と言っていたのに助けてくれるなんて。

「・・・お前もっと自分を大事にしろよ」
カイトの言葉が私の心の中の固くなったものをゆるやかに溶かしていく。

男なんて信じてなかった。信じたほうがバカをみると思っていたから。
男からはいつも優しい言葉をかけてもらえたけど、その言葉にはどれも下心が覗いていて結局男と女なんてそんなものだと思っていた。
だけど、カイトは違う。男と女、という前に人として私を心配してくれたのだ。
家族もない私にとってそれはどんな言葉より、心に染みた。

「なんで・・・泣いてるんだ」
カイトが驚いた表情で私を見つめた。そう言われて初めて自分の頬を濡らす涙に気が付く。
こんな所で泣いてはだめだと言い聞かせても涙は止まらない。

「だって・・・私・・・」
ひくっ、と子供のようにしゃくりあげてしまう。もう自分のコントロールできないところまで色々な感情が爆発してしまった。
ギルバートから助けてもらった安堵、そしてカイトの優しさ。
さまざまな感情が私の涙を後押しする。

困ったような表情を浮かべながら、カイトは私をそっと抱き寄せた。
その抱擁には男と女という生々しさは全くなく、ただ温かい。

「もう大丈夫だから。・・・泣くなよ」
耳元で聞こえるカイトの優しい声に私は子供のように声を上げて泣いた。
俺の膝で泣き疲れたシャロンがすやすやと眠っている。
まるで子供のようにしゃくりあげながら泣くシャロンに戸惑いながらも同時に彼女の弱さを知り愛おしい気持ちがこみ上げてくる。

出会いのときは最悪な女だと思っていた。そんなシャロンのことを気にしはじめたのはいつだっただろうか。バカンスの時?もっと前?
自分でも気が付かないほど自然にシャロンは俺の心の中に入り込んできた。

女のことを好きになったことは今までだって何度かあった。でもその時とはまるで違う。
「愛おしい」「大切にしたい」「守ってあげたい」
するりとそんな感情が出てくることに自分自身が戸惑う。

もう完全に俺の負けだな・・・・。
俺は小さく笑いながら彼女の髪を優しく撫でた。

「おっと・・・。邪魔したな」
二階で仕事をしていたレイが俺とシャロンの姿を見て勘違いしたらしい。再び2階へ上がろうとするのを俺は慌てて制止する。

「これは違う。勘違いするな」
「そう慌てるなよ。俺のいないときにしてくれたらもっと助かったけどな」
「だから違うって言ってるだろ・・・!」
シャロンを起こさないようになるべく声を抑えたつもりだったが、膝の上のシャロンがゆっくりと目を覚ました。

「・・・大丈夫か?」
起きたばかりで状況を把握していないぼんやりとした顔のシャロンは、子供のように無防備で思わず可愛いと思ってしまう。
俺とレイの顔に視線を走らせながらやっと今に至る状況を理解したようだ。

「私・・・帰るね。お邪魔しました」
そういうシャロンの頬がうっすらを赤みを帯びているように見えたのは俺の勘違いだろうか?
「まだぼーっとしてんだろ。家まで送る」
目と鼻の先とは言え、こんな状況のシャロンを一人にする気にはなれずソファから俺も立ち上がった。

「ううん。もう大丈夫だから、本当に」
シャロンは俺の申し出を断り、足早に家を出て行ってしまった。

・・・・・・。
気まずかったんだろうな。
普段強気な所しか見せなかったのにあんな姿を俺に見せたことが。
「なんだなんだ。お前の女性不信もどうやら終わりを告げそうじゃないか」
シャロンはいなくなった途端、レイがタバコに火をつけながら可笑しそうに笑う。

「お前な。そういう関係じゃないって言っただろ」
「あのじゃじゃ馬をどうやって飼いならしたのか教えてもらいたいところだ」
「そういう言い方はやめろ」
「人間ってのは自分の痛い所を突かれるとムキになるんだぜ」

「うるさい」
これ以上レイにからかいに付き合っていられるか。
俺は会話を打ち切るように視線を外した。

「おーーーい!!お前らっ!!」
扉が勢いよく開いて、ジェイクの大声が狭い部屋の中に響き渡る。全くいつも騒がしい奴だ。
「どうせお前らクリスマスの予定ないんだろ??」
「クリスマス・・・。もうそんな時期か」
「お前のことだ、どうせリサをクリスマスに誘えなくてみんなでって流れになったんだろ」

「カ、カイト!てめー余計なこと言うと誘ってやらねーぞ!」
ジェイクは全くもって詰めが甘い。
猪突猛進するくせに、肝心なポイントを抑えられないのはいつものことだった。

「レイ」
俺は隣のレイに顔を向ける。
「ん?」
「人間ってのは自分の痛いところを突かれるとムキになるっていうのは本当だな」
レイと俺は顔を見合わせながらニヤニヤと笑った。
chapter30へ続く
年内最後の更新でした~^^最後までみてくださって本当にありがとうございます。
今年は沢山のシム友さんが出来てとっても嬉しい一年でした^^
storyを読んでくださる方・コメントくださる方・拍手してくださる方
全ての皆様に感謝の気持ちでいっぱいです!
来年もまたどうぞヨよろしくお願い致します♪
今年一年ありがとうございました!!
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