chapter2 依頼

「命を狙われているんです。ある組織から」

その台詞のあまりの唐突さにカインとアリサは言葉を失っていたが、暫くするとカインが笑い出す。
「あんたドラマの観すぎだろ?はー・・・笑えるぜっ」
Screenshot-554.jpg「本当なんです!」
「証拠あんのかよ?あんたが狙われたって言い切れるほどの」

依頼人は俯きながら拳を握る。その手が微かに震えている。
「証拠は・・・ありません。でも、襲われたんです」
「襲われた?誰に」
「わかりません。仕事が遅くなった日の帰り道に知らない男たちにつけまわされて・・・。無我夢中で逃げてきたんです」
「狙われるような心当たりは?」
アリサの言葉に依頼人は小さく頷く。
Screenshot-555.jpg
「襲われる一週間くらい前に、街のはずれで10人くらいの男たちがいて・・・。なんだろうと思って近付いてみたらその男たちはそれぞれのバックを交換してました」
「・・・取引の現場だな」
カインの目が鋭く光る。
「今になって考えたら多分そうだと思います。ギャングかマフィアかわかりませんけど、そういう類の連中の取引を目撃してしまった訳です。そして運の悪いことに、僕が見ていたのがばれた」
依頼人が深いため息をつく。
「それで命の危険を感じて俺のとこに来たってことか」
Screenshot-551.jpg「そうです。会社にいても恐怖を感じるようになって・・・結局仕事も辞めました。普通の生活が送れるようになりたいんです。お願いします!」

「簡単に言うがな・・・ああいう奴らは話して分かるようなやつじゃないぜ。あんたに手を出させないようにするにはあんたがこのことを警察にタレこまないことと、やつらの取引の証拠がなけりゃ駄目だろうな」
「取引の証拠を掴んだらもっとヤバいんじゃないの?」
Screenshot-550.jpgアリサの疑問にカインが鼻で笑う。
「お前なあ・・・。もっと頭使えよ。取引の証拠があれば奴らだって少しは話を聞くだろうよ」
「交渉するってこと?」
「そうだ。その証拠を警察につきださない代わりにこいつのことは見逃すように交渉するしか手はないだろ。問題はその証拠を集めてる間にあんたがまた襲われないかってことだが・・・」

依頼人の体が緊張と恐怖のせいで硬く強張るのがわかる。
「だったら証拠が集まるまで、この家にいたらいいよ。自分の家に帰るより安心でしょ?」
アリサの提案に依頼人は救われたように顔を輝かせる。
「そうさせてください!!お願いします!」
Screenshot-552.jpg
「勝手に決めるなっ!!美人ならともかくなんで男を俺の家におかなきゃいけねえんだよ!!」
「じゃあこの人が自宅に帰って殺されたらあんたどーすんのよっ!!」
「男だろ!てめえの身はてめえで守れ!!」
「それができたらあんたに仕事を頼みにこないわよ!!このバカ!」
アリサはそう言うと依頼人の手を取り、部屋を出て行く。
Screenshot-556.jpg「部屋案内しますね。行きましょ」

「ここは俺の家だぞーーーー!」
カインの叫びは完全に無視され、二人は部屋を出て行った。
Screenshot-558.jpg「・・・手ェ握ってんじゃねえよ!」
拗ねたように小さく呟くカインだった。





Screenshot-559.jpgあたしは家の中を案内しながら、そっと依頼人の顔を見つめる。
青い目に白い肌。綺麗な男の人だなあ・・・。
ちょっとドキドキしたりしてね。
なんて思っていると依頼人と目があう。
「僕イヴァンて言います。あなたは?」
「あ・・・えとアリサです。ここがイヴァンさんのお部屋になるので、自由に使ってください」
客人用として使用している部屋に案内する。ここならベッドもあるし、生活するのには困らないはず。
「ありがとうございます。アリサさんはカインさんの恋人なんですか?」
唐突な質問にあたしは勢い良く首を横に振る。
「違いますよ!あたしはただの助手!あんな女好き、誰が恋人に・・・」
あたしの反応にようやくイヴァンさんが笑顔になる。
Screenshot-563.jpgあ、笑うと可愛い。
「そんなに女好きなんですか」
「そりゃあひどいもんですよ。美人がいればおっかけまわしてるような奴だから」
その言葉にイヴァンさんはちょっと不安そうな顔をする。
「証拠探しするときに組織からハニートラップとか仕掛けられたら・・・」
Screenshot-561.jpg「大丈夫ですよ!仕事モードになってる時は普段バカなあいつでもそうやすやすとひっかかりませんから」
仕事をいったん始めるとあいつは普段の女好きを忘れたかのように仕事に打ち込む。
その姿はちょっとかっこよくて。
だからあたしはあのバカから離れられないのかもしれない。
まあ、仕事が終わればその情熱全てを女性に向けるんだけどね・・・。
「信頼してるんですね」
Screenshot-562.jpg柔らかくイヴァンさんが笑いながら言った。
「仕事の面では、ね。あたしが言うのもなんですけど仕事はできる男ですから、イヴァンさんも安心してください」
「はい。よろしくお願いします」



Screenshot-569.jpgその夜。カインは仕事のスイッチが入ったらしく夕食を終えるとPCに向かって色々調べものをしている。その背中をみつめながらあたしは小さく安堵のため息をついた。
これで今月の請求書の心配しなくて済む・・・。
Screenshot-568.jpgそんな開放感から少し優しくなったあたしはカインにコーヒーを入れて持っていく。
「はい。コーヒー」
「・・・・随分と機嫌がいいな。ああいうタイプの男が好みなのか?」
「はあ?何いってんの?」
なんでそうなるわけ?こいつの頭の中はそういうことしかないのか!
「普段俺にコーヒーなんかいれてくれたことねえだろ。これだってどうせあの男にいれたコーヒーのおすそ分けなんじゃねえの」
「あんたが仕事をちゃんとしてくれたらいくらでも入れてあげるわよ!」
そこまで言ってハタと気がついた。

Screenshot-571.jpgこいつまさか・・・。

妬いてる、とか???

それに気がつくと一気に気分がよくなる。いつもの仕返しだ。思い知れ、このバカ。

「そういえばイヴァンさん、あたしの料理すごいホメてくれたんだあ~。そういう風に褒めてくれる男の人って素敵だよねえ♪」

ぴく。Screenshot-572.jpgこっちを見ないようにしてはいるものの、カインの眉が動くのが分かった。
「へえ」
何気ない態を装って流そうとする姿がおかしい。意地悪してやりたくなる。
よし。もうちょっと破壊力のある嘘をついてみるか。

「この件が片付いたら食事でも行きませんかって誘われちゃったの!かっこいいし、優しいしあたしにもやっと彼氏ができるかな~☆」
Screenshot-574.jpgぴくぴくぴく。
カインの口まで微かにゆがみ始めた。楽しすぎる。。。
あたしって性格悪いのかもしれない。
「か・・・彼氏か。よかったな」

いつもの憎まれ口を叩く余裕もなく、カインの顔はひきつっている。
その顔を見て満足したあたしはもうこのへんで勘弁してやろうと思った。

「ウソに決まってるでしょ」
「そ、そうか・・・。うそか・・・って!アリサ、てめえ!!」
慌てたように立ち上がるカイン。こんな反応するんだあ。面白い♪♪
Screenshot-577.jpg「もしかしてちょっと妬いちゃったワケ~?」
「はあ?お前みたいな色気のねえ女に誰が妬くかよ!鏡みて物を言え!」


ムカッ!!

確かにエマみたいな色気はないのは自覚してるわよ。でもそんなブス扱いしなくたっていいじゃない!!
「あたしだって地球上にアンタと二人になったって絶対嫌よ!!このロクデナシ!!」
「俺だって願い下げだね。お前と二人なんて考えるだけで虫唾が走るっ!!」
Screenshot-579.jpg「あ~!あたしなんでこんな男の助手なんて始めちゃったんだろう!人生最大の過ちよ!!」
Screenshot-580.jpg「俺はお前に強制したつもりはない!だいたい勝手に住み込み始めたのはお前のほうだろうが!!」

二人の喧嘩は夜が更けるまで続いたのだった。

イヴァン「うるさい・・・・」





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カイン編 もくじ

Screenshot-522.jpg女好きな私立探偵カインとその助手アリサのコメディ調ラブストーリー。変顔率高め!!
クリックするとそのお話に飛べます。

カイン&アリサSS

chapter1 カインとアリサ

chapter2 依頼

chapter3 情報

chapter4 誘惑

chapter5 嫉妬

chapter6 疑惑

chapter7 正体

chapter8 切愛

chapter9 結末 最終話 
 
カイン編あとがき&SS

chapter1 カインとアリサ

Screenshot-519.jpgちょっといつまで寝てるつもり?!いい加減起きなさいよ!」
あたしはアリサ。この昼過ぎまで寝ているどうしようもなくだらしない男カインとは腐れ縁の仲だ。
「・・・ったくうるせえな・・・。俺はお前を助手として雇ってんだぞ!嫁みたいな真似するな!」

「嫁えええ?誰があんたみたいなだらしない男の嫁になるか!!馬鹿!」
まだぐずぐずと眠ろうとしているカインの顔に枕を思い切りぶつけてやる。
Screenshot-521.jpg「暴力反対!」
「ふざけたこと言ってないで顔洗ってきなさいよ!」

まったく・・・。どうしてあたしはこんな男の助手になんかなっちゃったんだろう。
カインが私立探偵になってしばらくして、面白そうだとおもって手伝い始めた。
最初はただの遊びの延長線みたいなもんだったのに。
気がついたらいつの間にか住み込みの助手になっていた。
まあ、普通のOLよりは退屈しない毎日を送れるだけでよしとするか。


Screenshot-524.jpg「なあ、ライデンなんかと付き合うの辞めて俺にしとけよ」
「ふふふ。あの人みたいにクールな生き方できないでしょ」
リビングに下りていくとカインの友人のエマが来ていた。
女好きなカインはその友人すらも口説き始めている。
「・・・あいつクールっていうかすでに人外レベルだろ・・・」
「カインっ!!あんた起きてる時、女口説くしかできない訳?!」
最近全然仕事もせず、綺麗な女の人をみる度口説きまくっているロクデナシにあたしは怒りを爆発させる。
Screenshot-525.jpg「あら、アリサ。そんなに妬かなくても大丈夫よ♪私はカインに興味ないから」
「妬いてなんかないわよ!!あたしだってこんな女好き興味ないっ!」

「俺だってお前みたいな女、口説こうとすら思わねえよ!ガキだし、胸ねえし、くびれも・・・」
「何か言った?」

思い切りカインを睨みつける。
「い・・・いやあ・・・。そういえば俺、用事あるから出かけてくるな!」
Screenshot-527.jpg「ちょっ!!待ちなさいよ!!仕事はどうすんのよーーー!」
カインの逃げ足はいつも速い。飛ぶように家を出て行く。
Screenshot-530.jpgはあ・・・。今月全然仕事してないのに・・・。
どうやって請求書払おう・・・。

「アリサ・・・」
ため息をついて落ち込む私をかわいそうだと思ったのか、エマが優しく声をかけてくる。

Screenshot-528.jpg「なんか最近所帯じみてるわよ?疲れたオバサンみたい」
「うるさいわねっ!!」
エマに慰めを期待した私が馬鹿だった・・・。

「だいたい今日は何の用できたの?」
「カインにちょっと頼まれものされてね。その書類を届けに来たの」
「なにそれ。あたし聞いてないけど、仕事?」
Screenshot-529.jpg「う~ん・・・。どうかしらね。あたしも内容はよくわかなんないの。ライデンからその書類預かっ
て渡しに来ただけだから」
ライデンというのはエマの彼氏だ。仕事はなんというか・・・ものすごいグレーな仕事請負人?みたいな感じで裏社会のことも知り尽くしている。(詳しくはkaorinさんのブログを見てね!)
そのライデンにカインは何を頼んだんだろ?

「じゃ、あたしはそろそろ帰るわね。カインと喧嘩しちゃ駄目よ~」
「一言余計なの!!」



一方のカインは、最近行きつけのスパに来ていた。
「アリサがいたら家でも休まる暇ないからな・・・」
一人ごちるカインの姿を見つけたらしい女の子がカインに向かって手を振る。
ここのスタッフのサラだ。
Screenshot-532.jpg「カインさん~!また来てくれたんですね!嬉しい~」
「当たり前だろ。君の笑顔を見てるだけで癒されるんだから」
Screenshot-533.jpg「もう~カインさんったら!」
嬉しそうに喜ぶサラにマッサージ台まで案内される。
「今日はとっておきのマッサージしちゃいます!」
「とっておき?へえ、どんなの」
ベッドに身を横たわらせながら尋ねるカイン。
サラはたっぷりとボディオイルを手に取りながら、そっとカインの背中に触れる。
Screenshot-535.jpg「とってもきもちよ~くしてあげます(はあと)」
サラに耳元で囁かれ、カインのボルテージは一気に上昇した。
Screenshot-536.jpg
(キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)


「ふうん。どんな風に気持ち良くしてくれるワケ」

カインの頭上からアリサの醒めきった声が降ってくる。
「おっ・・・おまえなんでここにっ!!」
慌てて体を起こすカインにアリサは一枚のカードを突きつける。
このスパのスタンプカードでもう20個以上スタンプが押されていた。
「これ、家に落ちてましたよ~。仕事もせずに随分と熱心に通ってるんですねえ」
「どこに行こうと俺の勝手だろっ!お前はいちいちうるさいんだよ!」
「仕事さえしてくれたらあんたがどこに行こうが口出ししないわよ!!」Screenshot-539.jpg仕事のことを言われるとカインも何も言い返せない。
「帰るよ」
「え・・・」
「依頼人が来てるの!!仕事しに行くわよ!!」

そんな二人のやりとりを見ていたサラが困惑気味に口を開いた。
「あの・・・マッサージは?」
「キャンセルでお願い」
「おまっ・・・!勝手なことするんじゃねえよ!」
Screenshot-540.jpg「うるさいっ!!ごちゃごちゃ言ってないで帰るの!」
アリサにずるずると引きずられながらカインは家へと強制送還された。
Screenshot-541.jpg(俺の・・・とっておきマッサージがああああ)




「・・・・で、依頼人ってあんた?」
Screenshot-542.jpg思い切り不機嫌なカイン。マッサージを受けられなかっただけでなく、目の前に座る依頼人が気に入らない様子だ。
それもそのはず、ソファに座る依頼人はカインの嫌いな線の細い美少年だった。
Screenshot-543.jpg「カイン!ちゃんと話聞きなさいよ!」
「お前、何年俺の助手やってんだよ!俺は男の依頼人は嫌いだって言ってんだろ!それがイケメンならなおさら気にいらねえ!!」
「あんた仕事を選べる立場だと思ってんの?!この仕事断ったら今月の支払いどうするのよ!」

Screenshot-548.jpgカインとアリサが言い合っていると、おずおずと依頼人が言った。
「お金ならいくらでも払います!だから助けて欲しいんです!」
その声は切羽詰まっていて、カインも仕方なさそうに座る。
Screenshot-544.jpg「・・・で、依頼の内容は?」
Screenshot-547.jpg
「命を狙われているんです。ある組織から」

まるで映画のようなセリフを思いつめた表情で口にしたのだった。


カイン編 登場人物

Screenshot-512.jpgカイン編登場人物の紹介です。


Screenshot-515.jpg名前:カイン 
性格:女好きでだらしない私立探偵。嫌いなものは自分以外のイケメン。
本館addict simsではマジシャンとして遊んでますw


Screenshot-518.jpg名前:アリサ
性格:勝気だけど正義感が強い性格。意外に料理が上手い。カインとは腐れ縁。カインの助手をしている。



Screenshot-358.jpg名前:イヴァン 
線の細い美少年で仕事の依頼人。ある組織から狙われていると助けを求めてきた。



Screenshot-448.jpg名前:エマ
セクシーな美女。カインとは長年の友人。恋人はkaorinさんのブログのGTA4プレイに出てくるライデン。

あとがき的な

  • 2012/08/25 16:13
  • Category: 雑記
Screenshot-489.jpg
先ほど最終話 UPしました~。2週間足らずで9話UPしましたが楽しみながら作れちゃいました♪
自分の性格上、やるならとことん!なので一気にUPしないと途中で飽きて他のことをしたくなっちゃうんですよねえ。。。
プレイする世帯も1ケ月同じ世帯だったことがほぼないくらいの飽き性なのです(;´∀`)
だから完結できてよかった~。ここまでお付き合いくださった方、拍手をポチしてくださった方、コメントくださった方、皆さん本当にありがとうございました!ものすごい励みになりました!

次のお話ですがフィーナ編にするかカイン編にするか迷い中です。
お話もまだ固まってないのですが、イヴ編のような小説もどきじゃなくてもう少しライトな感じで
書きたいなと思っています。

それと、FC2のコミュニティでシムズ3がなかったので作って見ました。FC2自体慣れてないので
ただ作っただけ(*´∀`)ですが、シムズ3がお好きな方ならどなた様でも是非♪大歓迎です!

最後になりますが、ここまで読んでいただいて本当にありがとうございました(^人^)感謝♪

chapter9 Stay with me

  • 2012/08/25 15:53
  • Category: 雑記
どれくらい長く互いに見つめあったまま立ちつくしていただろう。
二人の沈黙を破ったのはアーサーだった。
「お久しぶりです」
少し笑みを浮かべながらそう言った。
Screenshot-479.jpgその言葉にどう反応していいか迷った末に、私は自分の葛藤など見せずに淡々と返事をする。
「会社、辞めたのね」
「はい。黙ったまま辞めてしまってすいませんでした。もし・・・イヴさんが僕の辞めた理由をあのことにあったと思ってたなら違うって伝えたくて」
女とのゴタゴタで仕事を辞める男だなんて思っていない。
そんな男なら・・・私は好きになっていない。
「ヘッドハンティングされたんでしょ?」
Screenshot-477.jpg「僕がずっとやりたかった研究をさせてくれる会社が名乗り出てくれて・・・。チャンスだと思って移りました」
「そう・・・。おめでとう」
律儀な男。わざわざそれを言いに来たなんて。
だけど以前とはもう違う。どんなに近くにいても見えない壁が二人の間を遮っている。
心の距離はずっと遠くなってしまったことを感じた。
でも仕方ないことだ。それにもう終わったことなのだから。
「イヴさんにそう言って貰えると嬉しいです」
いつものアーサーの笑顔で私に笑いかけてくる。
やめて。せっかく心が落ち着いてきたのに。もうこれ以上かき乱さないで。
「じゃあ仕事頑張ってね」
Screenshot-481.jpgもう限界だった。これ以上ここに立っていたらずっと我慢してきたものが溢れ出してしまいそうだった。
泣き出してしまいそうな顔を見られたくなくて私は背中を向ける。
「イヴさんっ!!」
アーサーの声が私の名を呼ぶ。
その言葉に私の足は動きを止めてしまう。
「・・・イヴさんも・・・仕事頑張ってください」
そんなありきたりな言葉に落胆している自分に気がつく。
今更、何を期待しているの?馬鹿みたい。
自分の目で見たでしょう?アーサーの気持ちはもう新しい恋人に向かっている。
年上の女が諦め悪いのって最高にカッコ悪いわ。
Screenshot-482.jpg「元気で」
アーサーの決別の声が聞こえ、ゆっくりと去っていく足音が耳に届く。

もうこれできっと会えるのは最後になるだろう。
初めて出会った時のこと、初めてのデート、そして一生懸命に愛してくれたアーサーが次々と浮かんでは消えていく。
今まで好きになったどんな男とも違ってた。
純粋で生真面目でいつも真剣なアーサーが、気がついたらとても大きな存在になっていた。


Screenshot-484.jpgこれでいいの?

心の中で私が囁く。

このまま、自分の気持ちを伝えないまま終わっていいの?

プライドが邪魔していつも言えなかった。意地を張り続けてきた。

だけどプライドとアーサーとどっちが大事?

答えは決まっている。
一度だけ、最後だけ素直になってみよう。
私はそう決めてゆっくりとアーサーを振り返った。

同じ瞬間。
離れていたアーサーも振りかえって、私の顔を見つめた。
Screenshot-485.jpg走りだしたのはどっちが先だっただろう?
まるでスローモションのようにゆっくりとアーサーが近くなって。
Screenshot-486.jpg
すぐ近くにある互いの体を抱き寄せていた。

Screenshot-488.jpg「イヴさんじゃなきゃ駄目なんです・・・」
優しいアーサーの瞳がすぐ側にある。もう二度と触れられないと思っていた存在。
「イヴさんのこと・・・諦めようと思って他の子と付き合ってみたりもしました。でも・・・駄目でした。やっぱり・・・僕はイヴさんが好きなんです」
そのアーサーの言葉に、あの時の二人の様子が浮かんで胸が痛む。
でもアーサーは私を選んでくれた。
それだけでいい。
黙ったままの私の頬を両手で包み込むアーサー。
Screenshot-490.jpg「聞かせてください。イヴさんの返事」
「・・・アーサーが好きよ。誰よりも大切で大事で・・・ずっと側にいて欲しいの」
初めて口にのせる自分の気持ちは、どこかくすぐったいような気恥ずかしさだ。
「やっと言ってくれた」
くすりと笑いながらアーサーは私の頬を撫でる。
Screenshot-491.jpgその笑みに私も釣り込まれるように笑った。
温かくて幸せな気持ちで心が満たされる。きっとアーサーとだからこんな気持ちになれた。
「でもこれからはそんなに言わないわよ」
その言葉にアーサーが困ったような表情を浮かべる。
Screenshot-492.jpg「言わせてみせます」
「期待してる」
顔を合わせて二人で笑い、優しいキスを交わした。
Screenshot-493.jpg



                                       Fin

もくじ イヴ編

  • 2012/08/24 19:11
  • Category: 雑記
Screenshot-441.jpg
 
強がりで不器用なキャリアウーマンのイヴと年下で純粋なアーサーの恋物語です。
クリックするとそのお話に飛べます。

chapter1 出会い

chapter2 年下の男

chapter3 ランチタイム

chapter4 ファーストデート

chapter5 変化

chapter6 星に願いを

chapter7 後悔

chapter8 離れる心

chapter9 Stay with me  最終話

イヴ編あとがき 

chapter8 離れる心

  • 2012/08/24 17:27
  • Category: 雑記
「イヴ先輩知らなかったんですか?アーサーさん、ずっと前からかなりの数の会社からヘッドハンティングうけてて、その1つに移ったんですよ」
こんな私でも慕ってくれている部下のティナの言葉を思い出す。
アーサーが突然会社を辞めたその理由を聞きたくて、さっきまでティナと一緒に食事をしていた。
ヘッドハンティングを受けていることなど付き合っている時も知らなかった。
アーサーの仕事が研究職であることは知っていたけど。
(結局、何も知らなかったんじゃない・・・私って)
あんなに一緒にいても知らないことがあったなんて。
Screenshot-465.jpg「お酒ちょうだい」
気持ちの持って行き場を失くして私はアルコールに頼る他なかった。
「カクテル?」
「なんでもいいわ。強いお酒がいいの」
なじみのバーテンダーがちょっと困ったような顔をし、不思議なほど滑らかな手さばきで黄色いカクテルを差し出す。
Screenshot-466.jpg「何があったかは知らないけど、飲みすぎないほうがいいよ。イヴさんらしくない」
「・・・ほっといてよ」
私らしいって何?いつも大人で物分りがいい女?
そんなの周りが勝手に決めたイメージじゃないの。私だって人間なのよ。飲み潰れたいときだってある。
黄色い液体を一気に飲み干すとグラスを差し出して「おかわり」を要求した。
バーテンダーは小さく肩をすくめ、黙って二杯目を差し出した。




Screenshot-467.jpgもう何杯目かわからないカクテルを水のように飲み干す。
お酒にはある程度自信があったけど、今日はピッチが早すぎた。ぼんやりと視界が膜をはったようになり、手元のグラスを落としそうになる。
「いいのみっぷりだね。一緒に飲まない?」
女が一人でヤケ酒している様子をみて、下心まるだしの男が声をかけてくる。
「気安く声かけないでよ。あっちいって」
強く拒むと男は舌打ちしながら他のテーブルへと移動していった。
あんな軽い男、話し相手にだってしたくない。
(・・・アーサーに・・・会いたい)
酔った頭でぼんやりと考える。
アーサーに会いたい。
抱きしめて欲しい。
どんどんこみ上げる思いに私は唇を噛んだ。
そんな思いを振り切るようにカクテルを口に運ぶ。その瞬間、どこからかアーサーの声が聞こえた気がして振り返る。
Screenshot-468.jpg背後の水槽の奥にゆらゆらと見える人影。
(アーサー・・・!)
私は酔いに任せて席から立ち上がる。
アーサーは別れたくないと言ってくれた。なのにどうして強がったりしたんだろう。
プライドばかりが大きくなって、自分の気持ちを押し殺そうとしていた。
強がるのはもうやめよう。
きっと今なら言える。もう一度チャンスが欲しいと。
私はふらふらとアーサーの影に引き寄せられていく。
アーサーの背中が見えたその時。
Screenshot-469.jpg「もうっ・・・アーサーさんってばあ」
甘えるような女の子の声がした。ふと気がつくと、アーサーの傍らには一人の女の子が立っている。
見覚えのある顔。会社の女の子だ。綺麗に巻かれた髪で気がついた。
アーサーと同じ位の歳で、まるでデコレーションされたお菓子のように可憐な子。
Screenshot-470.jpg隣のアーサーも笑いながらそれに答えている。
その笑顔に全身から血の気が引くのを感じた。そこに立っているのがやっとなほどだった。




それからのことはあまり記憶がない。
ただ必死で逃げるように家に戻ったことしか。
部屋に戻っても、あのアーサーの楽しそうな笑顔が何度も浮かぶ。
あの笑顔は少し前まで私だけに向けられていたのに。
別れたくない、そういってくれたはずなのに。
もう新しい恋を見つけて私のことは過去にしてしまった。
Screenshot-495.jpg(自分から別れるって言ったくせに・・・諦めの悪い女)
別れの原因は自分にあるのに、アーサーの変わり身の早さに傷ついている。
まだ、自分を待っていると思ったの・・・?
Screenshot-497.jpg「とんだうぬぼれね」
そう呟いた途端、涙がこみあげてくるのを感じてきつく目を閉じた。
泣かない。絶対に。
あれだけ沢山の強がりを言ってきたのだ。
だからこそ最後の最後まで強がりを通そう。
そして明日からはアーサーのことを忘れよう。
きっとできる。私なら・・・。できるわ。



あれから1ケ月が経った。
私の担当していたプロジェクトは成功を収め、次のプロジェクトを任されただけでなく昇進も手に入れることができた。
ようやく自分が戻ってきたような気がする。
アーサーと出会うまえの強い自分に。
アーサーとのことを思い出さなくなった訳じゃない。今でもふとした拍子に顔が浮かんで胸を締め付ける。
だけど。
その頻度も少しずつ減ってきていた。
Screenshot-474.jpg(もう当分恋愛はお休みするわ)
仕事を終え、私は一人そう呟きながら家路へと急いだ。
今日はいつもより早く家に戻れそうだ。ゆっくりお風呂に入って、そのあと剥がれてきたネイルを落として塗りなおそう。
久々にパックでもしようか。
そんなことを考えながら家にたどり着く。
Screenshot-475.jpgそこに佇む一人の男。私は自分の目を疑った。
どうして・・・ここにいるの。
ようやく忘れようとしているのに、今更何の用なの。
色んな想いが交錯して私はその場から動けなくなる。
Screenshot-476.jpgそしてその男がこちらに気がついて視線が合う。
お互いにただ見つめあう時間が、とても長く感じられた。

chapter7 後悔

  • 2012/08/23 15:58
  • Category: 雑記
Screenshot-471.jpg「イヴさんの先輩に聞いたんです。本当ですか」
頭の中が真っ白になって、アーサーの声が遠くに聞こえる。
先輩が、アーサーに・・・。
今までしてきたことの仕返しなのだとぼんやりとした頭で考えた。
「そんな訳ないですよね?・・・イヴさん!」
悲痛な叫びが受話器から漏れ、私の意識を引き戻しす。
いつか、このことがアーサーに知られる日がくること分かってたことじゃない。
私が選んできたことだ。今更何も言い訳したくない。
「・・・本当よ」
「嘘だ。そんなわけ・・・」
いつかフィーナと話したとき、私が好きになる男は過去のことなど気にしない男だと思った。
でも現実はそううまくはいかない。
今時めずらしいほどの純情なアーサーが、仕事の為に寝る女など許すわけがなかった。
「ボスに命令されたんですね?寝ないと仕事をやらないって」
優しいアーサーはこの期に及んでも私を庇おうとしていた。
その優しさで、心が痛い。
「違うわ。私は先輩に負けたくなかった。だから自分からボスと寝たの」
Screenshot-472.jpg決定的な一言にアーサーは何も言えずに沈黙だけが支配する。
ボスはドライな性格だからあれ以降誘われたりしたことはなかった。
もちろん、誘われても断っていたと断言できる。
でもそれが何だっていうんだろう。アーサーにとっては私がそういうことをできる人間だということだけで許せないだろう。
あんなに一生懸命、愛してくれたアーサーを深く傷つけた。
「・・・」
アーサーは言葉を失っている。優しいアーサーのことだ。いくら私に非があったとしても、自分から別れたいと言えるとは思えない。
私が。幕を引かなきゃ。
愛しているから、さよならしなくちゃ。
「私はそんな女だったってこと。・・・もう会わないほうがいいわね」
「イヴさんっ・・・」
私を呼ぶ声。きっと最後になるだろう。
目を閉じて息を吸い、一思いに私からの最後の言葉を口にする。
「さよなら」
Screenshot-473.jpg強張る指で通話終了のボタンを押した。



ランチタイムで頻繁に人が出入りする扉を見ないように、必死に手元の本に目を落とす。
テーブルの横に立つ人の気配がして私は勢い良く顔を上げた。
「お待たせしました」
店のウエイターがにこやかな笑顔でパスタをテーブルに載せた。
私は、何を期待しているんだろう。
自分から別れると言ったくせに、未練がましくいつもの店でアーサーを待っている。
Screenshot-453.jpg昨日の夜だって自分から電話を切っておきながら、アーサーからのコールバックがくるんじゃないかと携帯を握り締めたままで朝を迎えた。
(結局電話はなかったんだから・・・。もう諦めなさい)
私は自分に諭すように心の中で呟いた。
「今日はお一人?アーサー君にフラレちゃったの?」
今一番聞きたくない声がした。振り返らなくてもその声が誰かすぐに分かる。
Screenshot-454.jpg私の背後から先輩とその取り巻き2人が楽しそうに私の顔を覗きこんだ。
「かわいそうねえ。でも仕方ないわよ。仕事の為に寝る女を誰が好き好んで付き合うと思う?」
この女がアーサーにボスと寝たことを言ったのは怒っていない。
狭い社内のことだ。放っておいてもいつかアーサーの耳に入っただろう。それに事実だ。
けれど仕事の為に寝る女っていうのは先輩も同じではないか。
Screenshot-455.jpg「先輩、男にフラれた私よりもっとみじめな存在がいますよ」
イスから立ち上がり先輩を睨みつける。
「ボスが何て言ったか知ってます?先輩とは一度だけのつもりだったのに、実力で勝負できないから何度も誘ってきて困ったって言ってましたよ。うっとうしいって」
勝ち誇ったような顔をしていた先輩の顔がみるみる青ざめていく。
Screenshot-457.jpg取り巻きの二人にはボスと寝たことは秘密にしていたのだとその表情から知れた。
こんな露悪的な言い方をしたい訳じゃない。
でももう止まれない。けしかけてきたのは先輩の方だ。
「色仕掛けしても嫌がられる女ほど、みじめなものはないですよね」
そういい捨てると私はパスタに口をつけないまま店を出た。



フィーナのいった通りだった。
「好きな人ができたら、きっと後悔すると思う」
その言葉を思い出した。あの時は気にしていなかったけど。
でももう後悔したって遅すぎる。
残業を終え、疲れた体をひきずるようにして歩く。
アーサーと一緒だった時は仕事も楽しくて仕方なかったのに。
(まるで抜け殻みたいね・・・今の私)
恋ごときで右往左往する女は大嫌いだったし、そんな風になりたくなかったのに。
でもアーサーとの最後の電話から2週間が経った。アーサーからの連絡はないし、ごくたまに社内で会っても気まずそうに目を伏せる。
(もう考えるのはやめよう。今は仕事に集中しなくちゃ)
Screenshot-460.jpgそう思い直して、フィーナに頼まれていた食料品を買うために店に入り、バケットや野菜を籠にいれていく。
そうだ、洗剤がなかったんだっけ。
手を伸ばした時に隣に人影を感じて顔を上げた。
そこには私の一番会いたい人が立っていた。
Screenshot-461.jpg呆然とする私の顔を真剣な眼差しでみつめてくるアーサー。
久しぶりに近くで見たアーサーは少し痩せたと思う。
「イヴさん」
もう聞けないと思っていた私を呼ぶ声が、した。
だけど、私は何て言えばいい?どんなに言葉を尽くしてもボスと寝たことは消えない事実だ。
「もう話すことはないはずよ」
強がりばかりが口に出る。
Screenshot-462.jpg「・・・僕も男だから、こないだのことはすごくショックでした」
「もういいの。やめて」
「ちゃんと僕の話を聞いてください!」
アーサーの声は店中に響いて、他の客が何事かと見つめてくる。でもそんなことより、いつも穏やかなアーサーが声を荒げたことに驚いた。
「今は正直イヴさんを見ているとあの事ばかり思い出しちゃうんです。でもイヴさんと別れたくない。だから・・・少しだけ距離を置いて頭の中を整理させて下さい。」
Screenshot-463.jpg距離を置く、なんて別れたいけどそうは言えないから自然消滅を狙うってことだろう。
今ダメなものはいくら時間が経ってもダメなのに。
優しいアーサーはそうすることしか選べない。
「私には別れるしか選択肢はないと思う。だからもうやめましょう、こんな話するの」
「イヴさん・・・・」
「楽しかったわ。じゃあね」
Screenshot-464.jpg最後まで、好きだと言えなかった。ごめんね、こんな強がりばかりの女で。
胸の中でそうアーサーに呟いた。




それからさらに日は流れて。
ある日を境にアーサーに姿が会社から消え、私は人伝にアーサーが会社を辞めたことを知った。

chapter6 星に願いを

  • 2012/08/20 18:24
  • Category: 雑記
いつから好きになっていたんだろう?
面倒くさい、と思っていたはずのアーサーの誘いを心待ちにするようになってからだろうか?
わかっているのはアーサーに隣にいてほしいという気持ち。
一緒にいると自分の固い殻が破けていくような感覚になる。
意地を張ったり、強がらなくてもいい。
どんな私でも受け入れてくれるという安心感。


「イヴさん・・・イヴさん」
とろとろとまどろむ私を呼ぶ声が聞こえて、まだ閉じていたい瞳をゆっくりと開ける。
目の前にはアーサーの少し困ったような表情。
「ごめん、寝ちゃってたわ」
ここはアーサーの家。今日は休みでアーサーお勧めの恋愛映画を観ていたんだっけ。
ふとテレビをみるとエンドクレジットが流れている。
中盤までは起きていたのに、寝るなんて。
「一緒に観たかったけど・・・イヴさんの寝顔見れたからいいです」
Screenshot-442.jpgアーサーが私を優しく背後から抱きしめる。
「そういうことばっかり言うと怒るわよ」
くすっと笑いながら睨むとアーサーもつられたように笑った。
「相変わらずイヴさんは怖いな」
「ふふ。怖い女と付き合うなんてアーサーも物好きね」
こんな風に付き合うようになって3週間。アーサーと一緒に過ごす週末は私にとって大事なものになっていた。
会うたびに気持ちがどんどん大きくなっていく。
年下男に熱を上げるなんて、昔の私ならありえなかったのに。
Screenshot-439.jpg「イヴさん」
小さくアーサーが囁く。その声はかすれる様に低く、熱を帯びていた。
「僕のこと、好きですか」
「・・・嫌いならここにいないわ」
この3週間、毎週末繰り広げられている攻防戦。
アーサーは私の口からはっきりとした言葉を聞きたがり、私はそれからすり抜けようとする。
私のはぐらかすような返事にアーサーは拗ねたように言った。
「ちゃんと聞きたいんです、イヴさんの口から」
それなりに恋愛はしてきたけれど、私は「好き」と口に出して言うことが苦手だ。
アーサーのことは好きだ。でもそれを口に出すことは恥ずかしくてできそうにない。
態度で分かって欲しい。
そう思った私はアーサーの頬をそっと包んで、頬に軽く唇を寄せた。
Screenshot-438.jpg「分かってるでしょ。私の気持ちは」
キスは何度もしているのに、アーサーの頬はみるみるうちに赤く染まる。
「イヴさん、ずるいです・・・」
「年上の女はずるいのよ?嫌いになった?」
私はアーサーの質問をそのまま返す。自分は言いたくない癖に、アーサーからは聞きたい。
本当にずるい年上女だわ。
「嫌いになんか・・・なれません」
グイッと体を引き寄せられてアーサーの唇が私のそれに重なり、愛おしげに私の髪を撫でた。Screenshot-441.jpg



フィーナがアーサーに会わせて欲しいと言い出し、翌週末は3人でのささやかなホームパーティをした。
フィーナの美味しい食事をたいらげ、私とアーサーはプールサイドに出て軽くシャンパンを飲む。
あたりはもう暗く、夜の帳が下りている。
「フィーナさんてお嬢様なんですね。どうしてこんな豪邸に住んでるのかと思ってました」
「フィーナが一人暮らしするときに親に貰ったんだって。半端ないお金持ちだからね、あの家は。そこに私が居候させてもらってるってわけ」
Screenshot-430.jpgグラスに残ったシャンパンを飲み干す。
「お嬢様で美人で料理上手で優しいのよ。おまけに彼氏なし。どう?フィーナに乗り換えたくなった?」
挑発的な視線でアーサーを見つめて言う。過去の男でフィーナに会わせた途端、乗り換えようとした男がいたことが少しトラウマになっていた。だから本当はアーサーをフィーナに合わせるのが少し、怖かったのだ。
アーサーは優しく笑ってそんな私を抱きしめる。
Screenshot-432.jpg「まさか。僕はイヴさんがいいんです」
不安を吹き飛ばしてくれる優しい言葉。そして抱擁。
私もそれがあれば、アーサー以外いらない。
「年上を喜ばせるのがうまくなったわね」
「本当のこと言ってるだけです」
飾りのない言葉でまっすぐに愛してくれるアーサーの腕の中はとても心地よい。
ずっとこの時間が続けばいいのに。
いつか離れてしまう時がくるのだろうか?まだ始まったばかりなのに、アーサーの愛に浸っている私はそれがなくなることを恐れている。
「他の子が良くなったらいつでも言ってね。我慢して付き合われるのは嫌だから」
その言葉にアーサーがちょっと怒ったような顔をして言い返す。
「そんなことしません。僕はずっとイヴさんを好きです」
その時だけの口約束だってわかっている。
だって恋は突然降ってくるものだし、アーサーはまだ23歳だ。
恋が成就してもそれは永遠ではないことを、私は過去の恋愛で何度も経験している。
だけど。
今だけはそんなことを考えず、アーサーとの時間を大事にしよう。
シャンパンのグラスを置くと私はアーサーの腰に腕をまわした。
Screenshot-433.jpg「イヴさん・・・泣きそうな顔してる」
「私だって不安になることくらい、あるのよ」
「・・・そんな不安、吹き飛ばしてみせます」
アーサーの私を抱く腕に力が込められ、私はゆるく瞳を閉じる。
Screenshot-434.jpg星が一つ、流れるのが閉じていく瞳の中に映る。
どうかお願い。アーサーとずっと一緒でいられますように。
生まれて初めて私は願いをかけた。



プロジェクトも終盤にさしかかり、最近は毎日残業が続いていた。
今日も家に着いたのが22:00を過ぎていた。お風呂にゆっくり浸かり、寝るまで読みかけの本でも読もうとベッドの上に身を投げ出した。
Screenshot-435.jpg本を数ページ読んだところで、バッグの中の携帯電話がけたたましく鳴る。
「もう・・・こんな時間に誰よ」
せっかくの貴重なリラックスタイムを奪われ文句を言いながらも、アーサーかもしれないとすぐに立ち上がり携帯を取り出す。
液晶画面にはアーサーの名前が映し出されていた。
「もしもし」
寝る前にアーサーの声を聞ける嬉しさで声が少し高くなりそうなのを押さえて通話ボタンを押す。
「・・・イヴさん」
電話のむこうのアーサーの声はいつもと違う、思いつめたような声だった。
「アーサー?どうしたの?何かあった?」
「っ・・・・」
Screenshot-437.jpgアーサーは何かを言おうとして、でもすぐに思い直し口を閉ざす。
何かが、アーサーに起きている。
全身に不安が澱のように広がってゆく。
「イヴさん、聞きたいことがあるんです」
「なに?」
そこからアーサーが口を開くまで、どれだけの時間がかかっただろう。
そんなに長い時間ではなかったかもしれないけど、私にとってはまるで永遠のように長く感じられた。
「仕事を取る為にボスと寝たって本当ですか」
アーサーの搾り出すような声が私の心を鋭く刺し、携帯を握る震えた手が冷たくなっていくのを感じていた。

chapter5 変化

  • 2012/08/19 17:47
  • Category: 雑記
おかしな気分が落ち着くまで扉に寄りかかっているとリビングから顔を覗かせたフィーナの視線とぶつかり、にっこり笑顔で手招きされた。
「おかえり!ねえねえ、どうだった?デート」
26だっていうのに、まるで学生のようにはしゃいでいる。
まったく・・・もう。
呆れながらも私はリビングに向かい、フィーナの入れてくれた紅茶を口に運ぶ。
その間も期待でいっぱいの視線を浴びせてくるフィーナ。Screenshot-420.jpg「別に普通のデートだったわよ。特に何もないわ」
さっきまでの気持ちなんてまるでなかったことにして、さりげなく言葉を選びながら言う。
「でもイヴ、あの人のこといいなって思ってるでしょ」
フィーナの一言にあやうく紅茶を吹きそうになる。
長い付き合いだから、フィーナには言葉にしなくても感情が伝わってしまうんだろうか?
でも、まだ「好き」なんかじゃ・・・ないんだから。
勝手に盛り上がられても困るのよ。
「悪くはないとは思ってるけど、まだ付き合うとか決めてないもの」
「でも今後はどうなるかわからないでしょう」
まるで自分のことのように嬉しそうに笑う。
私がフィーナのことを好きな理由の一つがこれだ。
他人の幸せを自分のことみたいに本当に喜んでくれる。辛いときも一緒に悲しんでくれる。
一見簡単そうに見えるけど、嫉妬とかいろんな気持ちがからみあって素直に喜べなかったりするものなのに。
Screenshot-422.jpg「フィーナも相手見つければいいのよ。いつまでも初恋の相手にこだわりすぎ」
フィーナなら相手はいくらだっているだろう。
私が男ならフィーナを彼女にしたいと思うくらいだから。
それなのに当の本人は10年も前から「初恋の王子様」に恋焦がれている。
「だってあんなに素敵な人、いないもの」
「素敵って言ったって・・・。今じゃプロスポーツ選手でしょ。接点もないじゃない」
「いいの。彼のこと見守れるだけでいいんだから。それに、他の男の人は興味ないの」
Screenshot-421.jpg 10年前、フィーナが初めての恋に落ちた相手はフィーナが不良にからまれているところを助けてくれたというその時点でもサッカーの天才として有名だったジークという男だった。
フィーナはお礼を言うことしかできず、彼との接点もそれきり。
その後ジークはプロ入りし、サッカーファンを沸かせる存在のスターとなって更に手の届かない存在になってしまっていた。
でもフィーナはいまだにその王子様に囚われている。
「このまま他の男に目をむけないつもり?女の賞味期限の半分くらいは損してるわよ」
「賞味期限だなんて・・・そんなひどい言い方やめて」
「いつまでも夢追いかけてないで、現実の男を見なさいよ」
「私のことより、イヴの彼氏のこと教えて!ねえ、どこで知り合ったの?何歳?仕事は何しているの?」
目を輝かせながら質問攻めにしてくるフィーナを前に、今夜は眠れないなと微かに笑った。




任されたプロジェクトも面白いように進んでいく。私のことを水を得た魚のようだと仕事に熱中する姿を見てフィーナが笑ったほどだ。でもきっとそれは仕事だけのせいじゃない。
ここ最近の自分の心の変化を認めたくなくてずっと強がっていたけど。
少しなら、認めてもいい。
アーサーの存在を。
毎日のランチタイム、週末のデート。それがあるから仕事も頑張れるのだと。
相手にもしてなかった年下男がこんなにも自分を変えていく。こんな風になるなんて思いもよらなかった。
「イヴさん、明日の夜空いてますか?」
金曜日のランチの席でアーサーが問う。夜?デートはいつも昼間からだったのに。
不思議に思い、尋ねる。
「いいけど、どうして夜なの?」
「え・・・その・・・。いいお店の予約が取れたんです。イヴさんを連れて行きたいなって」
次のデートで5回目のデートということから考えても、多分アーサーは勝負に出ようとしているのだろうと直感した。ついに白黒つけなきゃいけない時がきたのだ。
「分かったわ。ドレスコードあるお店?」
「そんなにきっちり決まってはいないですが、カジュアルエレガンス程度です」
「了解」
パンツばかりのワードローブを思い出し、ドレスを買わなきゃいけないなと思った。




Screenshot-413.jpg通された席はビーチを一望できる特等席で、所々に観葉植物が置いてあり他の客からの視線を塞いで屋外でありながらうまく個室のような印象を出している。
アーサーの予約した店はこの街一番の高級店だった。相当無理をしたのだろうということは席について緊張のあまり硬くなっているアーサーの姿を見ればすぐに分かった。
ギャルソンに注文をするときもどこかぎこちなく、以前はそんな男の姿を見たらすぐに嫌になっていたのに、今は自分の為に無理をしてくれたことが嬉しい。
(私も変わったわね)
心の中でくすりと笑った。
Screenshot-412.jpg「ワインは如何なさいますか?」
ギャルソンが厳かにアーサーに尋ねる。こういう時のマナーとして女は静かに待っていることだとは思ったが、アーサーがワインに詳しいとは思えずハラハラして見守る。
「あまり詳しくないんですが、何かお勧めはありますか?」
「ちょうどシャトー・ラトゥールが入荷しています」
「ではそれをお願いします」
そのやりとりを見て私はついにマナー違反を承知で口をだした。
「私ラトゥールは苦手なの。こっちのワインでいいわ」
女性のメニューには値段が記されていないが、恐らくこの店では一番値段が安いとおもわれるワインを指差した。ギャルソンが全てを分かったような笑顔で「承知しました」と言い下がっていく。
ギャルソンが去ったのを見届けてからアーサーに小さな声で囁いた。
「ラトゥールなんていくらとられるかわかんないもの頼まなくていいの!」
Screenshot-411.jpgその言葉にきょとんとした顔でアーサーが言った。
「そんなに高いんですか?」
「チェックの時に泣き出しそうになるわよ、頼んでたら」
「・・・イヴさんはこういう店に慣れているんですね」
ちょっと寂しそうな顔をして目を伏せるアーサー。
「少しぐらいは、ね」
「恋人と、来ていたんですか」
アーサーの視線がいつもより強い。普段ならこんな風に突き詰めて問うことなんてないのに。
その視線の強さに戸惑っているとギャルソンが食前酒を運んできて話が中断された。
食事の間も、普通に話をしていてもアーサーはどこか違った。
(・・・5回もデートに付き合っているんだから、分かりそうなものだけど)
それでも返事を聞くまでは分からないんだろう。アーサーみたいな純情な男には。



Screenshot-417.jpg「ご馳走様でした。とっても美味しかったわ」
店を出て会計を持ってくれたアーサーを振り返って言った。無理しなくてもいいのに、「僕が誘ったから」と頑なに割り勘を拒んだのだ。
金額ではなく、その気持ちが嬉しい。
海沿いの道の爽やかな潮風が頬を撫でる。
二人並んで歩く。アーサーは店を出てから黙ったままだったが、突然立ち止まった。
Screenshot-418.jpg「イヴさん。僕と付き合ってください」
口説き文句もない、アーサーらしいストレートな言葉だと思いながら、私の心臓はドキドキと早鐘を打っていた。
それには答えずハンドバックから一枚のハンカチを取り出して、アーサーに差し出す。
このハンカチは初めて会ったあの日にアーサーから借りたものだ。
いつかアーサーとのことで白黒つけなければいけない日がきたら返そうと思っていた。
「返すわ」
Screenshot-419.jpg
「・・・それがイヴさんの返事ですか?」
何を勘違いしたのか、アーサーは苦しげな表情で呟く。ハンカチを返すってことがどうしてそうなるのだろう。全く、もう・・・。
「これからはアーサーが側にいてくれるんでしょう?だったら持ってる必要はないってこと」
それが不器用な私の精一杯の返事だった。
アーサーの顔はいつもみたいな笑顔ではなく、その言葉を聞いても真剣なまなざしを注いでくる。
「イヴさん・・・」
ふいに風が吹いて、ハンカチが飛ばされそうになる。私はそれを手繰り寄せるように押さえ、その手をアーサーが掴む。
Screenshot-415.jpg気がつくとアーサーに引き寄せられてその胸に顔を埋めていた。
互いの吐息さえ感じられそうなほどの距離で視線がぶつかる。
Screenshot-414.jpg心地よい波音を感じながら、私たちはどちらからともなく唇を重ねた。



chapter4 ファーストデート

  • 2012/08/16 16:13
  • Category: 雑記
約束の時間が近付くと私は窓の外からアーサーの姿を探していた。
「あら?イヴ、誰かくるの?」
後ろからフィーナが不思議そうに尋ねる。
Screenshot-403.jpg「えっ?ああ・・・うん。ちょっと・・・ね」
窓を背に隠すようにして誤魔化そうとする。
「・・・今日は休みなのにおしゃれしてる。デートなの?」
Screenshot-404.jpgフィーナって意外と鋭いところがあるのよね・・・。
隠すつもりはないけど、まだアーサーとどうにかなるつもりなんてないから説明するのが面倒なのに。
その時玄関のチャイムが鳴り、振りかえると窓の外には少し緊張した面持ちのアーサーの姿が見えた。
Screenshot-405.jpg「素敵な人じゃない。最近のイヴがすごく機嫌良かった理由がわかっちゃった」
「べっ・・・別に機嫌良くなんかないわよっ!ちょっと誘われたから会う気になっただけ」
「ふうううん。イヴが慌てるなんてめずらしいね」
フィーナの笑顔が迫ってくる。帰ってきたら間違いなく質問攻めにあうに違いない。
「じゃ、行ってくるわね」
急いだフリをして玄関へと向かった。



「お待たせ」
私服姿のアーサーの前に立つと、なんだか妙に気恥ずかしい。
プライベートで会うなんて初めてだから。
そんなことを考えた自分にちょっと驚く。
(アーサーの純情がうつったのかしら・・・?)
「イヴさん、私服姿もすごくカッコいいですね」
アーサーが私を見つめて眩しそうに目を細める。まるで中学生のデートみたいだわ、これじゃ。
Screenshot-406.jpg「そう?アーサーは・・・若いわね」
黒いポロシャツとジーンズという姿からは若さがにじみ出ているようだった。
たった3歳の違いなのに、私服で会うとその違いと見せ付けられたような気になる。
「やっぱり大人っぽい方が好きですか?」
ちょっと悲しそうに目を伏せるアーサー。
私の何気ない一言でそんな風に感情が揺れるアーサーをちょっと可愛いと思ってしまう。
「カッコなんて酷くなきゃどうでもいいわよ」
その言葉でまたアーサーの表情が変わる。今度は嬉しそうな笑顔に。
「で、今日はどこへ連れて行ってくれるのかしら」
ころころ変わるアーサーの顔が可笑しくて笑いながら私は手を差し出した。
Screenshot-408.jpg差し出された私の手を優しくアーサーが包み込む。
Screenshot-407.jpg少しだけ。ほんの少しだけ胸が高鳴った。


ランチして、映画をみて、ウインドウショッピングをして。
普通すぎるほど普通のデート。
以前の私ならこんなマニュアル的なデートをする男を軽蔑してたのに。
アーサーとなら、何故か許せた。
「イヴさんの番ですよ」
今度はビリヤードだ。本当に、笑っちゃうくらい学生みたいなデート。
私はキューの先端にチョークを塗り構える。
Screenshot-391.jpgビリヤードなんてあまりなじみがなくて苦手だったけど、「わかんない~」などと声色を変えて連れの男にしなだれかかる隣の女のようには絶対になりたくない。
素人なりに狙いを定め、ボールを突いた。
「う・・・」
Screenshot-392.jpgボールは惨めなほど狙いと逸れて止まった。
「イヴさんでも苦手なものがあるんだ」
アーサーが可笑しそうに笑う。人を勝手に何でもできる超人扱いしないで欲しいわ。
「悪かったわね!」
「すごく可愛いです」
その言葉に心臓がギュッと締め付けられるような感覚に陥る。
可愛いなんて言葉を久々にかけられたってだけじゃない。あまりに自然に言われたからだ。
言った当の本人は照れるどころかにこにこ笑っているだけ。
全く、変な男。デートに誘うときはあんなにカチコチになって緊張してた癖に。
「馬鹿なこと言ってないで次行ってよ」
Screenshot-393.jpgアーサーがキューを構えるその後ろで、私は小さなため息をついた。
頬が微かに熱い。こっそりと手を伸ばして頬に当てると熱を帯びているのに気がつく。
(こんな年下男の一言でどうして私が赤面しなきゃならないのよ!・・・もう・・・)
ちょっと腹立たしい。でも心地良い。そんな複雑な気分。
アーサーと知り合ってから自分が少しずつ変わっていくような気がしていた。
硬くなっていた心がゆるやかに溶けていくような・・・。
溶けた後の心には自分も知らなかった私がいるようでほんの少し怖かった。



夕食を食べて家へと戻る帰り道をどうしても家まで送ると言ってきかないアーサーと並んで歩く。
あたりはもうすっかり暗くなっている。街頭の光がゆるく隣のアーサーの顔を照らす。
きわだって美男子って訳でもないけど、爽やかで優しい容貌。男にしては細かい所にまで気がつく繊細さを持っている。同年代の女の子からもモテない訳じゃないと思うのに。
Screenshot-398.jpg「ねえ。どうしてこんな年上をデートに誘う訳?うちの会社にはもっと若い子もいるでしょ」
それなりの規模の会社だから若い女の子も沢山いる。それなのに、何故同じセクションでもない私を誘うのかがよく分からなかった。
いますけど・・・。なんていうか・・・その・・・。僕の一部分しか見てないって感じなんですよ」
「K大学卒だからってこと?」
私の言葉に驚いた顔で見つめるアーサー。
「知ってたんですか?」
その問いに微かな笑みで答える。
「そうなんです。・・・K大学だから年収はありそうだとか、将来有望だとかなんとなく勝手にそう思われてる気がして」
アーサーの感じだとおり、自分の仕事に自信が持てない女は笑顔の裏で計算している。特に結婚適齢期に入る20代は顕著だろうと思う。
仕事をしてはみたものの、どうやら出世もできそうにない。だったら将来性のある男と結婚して安定を望む。そういう女を何人も見てきたから驚くこともない。
そんな女からみたらアーサーは間違いなく優良株だろう。
「でも、イヴさんは僕の仕事のこととか大学のこととか一切聞かずに僕自身と向き合ってくれているような気がするんです」
Screenshot-399.jpgまっすぐな瞳で私を見つめてくる。その視線の強さにはまだ答えられそうになくて、私は目を逸らす。
「どこの大学出とかただの記号にすぎないでしょ。いくらいい大学出てても年収があっても一緒にいてつならない男なんて願い下げだわ」
私は仕事ができる男が好きだけど、仕事ができる男=好きなわけじゃない。
「イヴさんのこと、益々いいなって思いました」
「ついこの間知り合ったばかりなのに、よくそんなこと言えるわねえ」
照れ隠しのように私は言い返す。アーサーから飛び出す何気ない一言に戸惑う自分が嫌だと思いながら
慕われて悪い気はしない。
「僕がイヴさんのこと知ったのは随分前ですよ。毎日、朝早くに会社に行って掃除したりたまに花を活けてたりしてる姿に・・・すごく惹かれたんです」
「な・・・」
毎朝のあの時間を知られているとは思わなかった。予想外の言葉すぎて私はとっさに言い返すこともできない。
「みんなの見てないところでそういうことができる女性って素敵だなって」
「・・・そんなに褒めても何も出ないんだからね。じゃあ、ここで」
タイミングよく自宅前にたどり着く。どう答えていいかわからないことばかり言うアーサーからなんだか
逃げ出したい気分だった。
「送ってくれてありがとう」
軽く手を振って背を向けようとするとアーサーが慌てたように口を開いた。
「あのっ・・・イヴさん!また・・・来週も会ってくれますか?」Screenshot-400.jpg一度のデートだけなら付き合いで仕方なく、といえるけど。
二度目ならそうは言えない。それを受けるのは自分も少なからず好意があると公言するようなものなのに。
それを十分分かっているのに、私は・・・。
「OKしないと明日からのランチタイムが大変ね」
Screenshot-401.jpgその答えに安堵したのかアーサーが少しいたずらっぽく笑った。
「そうですよ。ランチ中ずーーっとデートに誘いますから」
顔を見合わせてくすくすと笑いあう。それが承諾の返事だった。
「それじゃ、ね。おやすみなさい」
自分の口から出た声は自分でも信じられないほど優しい。
「はい。おやすみなさい。・・・また明日」
アーサーは私がドアを閉める時までずっと私を見守っていた。まるで自分がか弱い女の子になったような、そんな気分。弱い女扱いされることなんて普段なら絶対に許さないのに。
どうしてアーサーにならされても嫌じゃないのだろう。
閉めたドアに背中をつける。ちょっと自分が自分じゃないみたい。変な感じ。
それにしても、デートで何も手を出してこなかった男なんて何年ぶりだろうと思いながら軽く目を閉じた。

chapter3

  • 2012/08/15 14:40
  • Category: 雑記
アーサーとランチを共にするようになってから二週間。
1時間という短い時間の中でも色々なことがわかってくる。
男のくせに甘いものに目がなかったり、恋愛映画が好きだったり。
いわゆる草食系かと思いきや、早くに両親を失くして奨学金で大学に行った苦労もしているらしい。
気がつけばランチタイムを心待ちにしている自分がいたりして。
(・・・単なる暇つぶしよ)
そんな強がりを言いながら今日もアーサーと向かい合っていた。
Screenshot-380.jpg「・・・どうしたの?全然食べてないけど」
今日のアーサーは現れたときから少しおかしかった。何だかすごく緊張しているように見える。
いつもはあっというまに平らげる食事にも少ししか口を付けず、気がつけば目を伏せたかと思うとこちらをじっと見つめてきたり。口数も少ない。
「あっ・・・いえ、何でもないです」
Screenshot-381.jpg「ふーん・・・」
慌てるアーサーの姿を見つめながら、食事を終えた私はナイフとフォークを置く。
この二週間で、年上をからかうことに飽きたってところかしらね。
ランチタイムも終わりにしたいけど、自分から言い出した手前言えずにもじもじしてるのだろうと見当をつける。
(だから年下はいやだって言ったのよ・・・。燃えるのも燃え尽きるのも早すぎてついていけないわ)
そんな所が面白くて、毎日この時間を楽しみにしていた自分が馬鹿馬鹿しく思える。
いいわよ。終わりにしてあげる。
かるくため息をついてコーヒーを飲む。
「ランチタイムはこれで終わりにしましょ」
終止符は私に打たせてよね。それが年下のマナーってやつなんだから。
「えっ・・・どうしてですか?」
そんなすがるような瞳で見たって誤魔化されないんだから。ああ、本当に面倒くさいったらないわ。
「終わりにしたいんでしょ?それが言い出せなくてウジウジしてる姿なんて見たくないの」
Screenshot-382.jpg「違いますっ・・・イヴさんっ!」
「じゃあね。二週間楽しかったわ」
この店は料理と引き換えに精算を済ます店で良かったと思いながら、私はそのまま席を立つ。
・・・あぶなかった。早く気がつけてよかった。
深入りしてから傷付くなんてまっぴらだから。
今だったら楽しかった思い出のまま、終わらせられるもの・・・。
「イヴさんっ!!待ってください!」
背後から追いかけてきたらしいアーサーの声がする。
まさか追ってくるとは思わなくて、思わず早足で立ち去ろうとするとアーサーは私の腕を掴んだ。
Screenshot-383.jpg「ちょっとっ!離してよ」
「すいませんっ!でも・・・僕今日イヴさんをデートに誘おうとして・・・緊張してて・・・」
意表をついた言葉がアーサーから飛び出して私は呆然と立ち尽くす。
デート・・・?
アーサーの顔は真っ赤になっていて今にも湯気があがりそうなほどだ。
「その・・・ランチだけじゃなくてもっとイヴさんと一緒に過ごせたらって考えていたんです」
Screenshot-387.jpgデートに誘う緊張を私は勘違いしてたってこと・・・?
「ぷっ・・・・」
自分の勘違いと目の前で茹蛸のようになっているアーサーが可笑しくて思わず笑ってしまう。
今時デートに誘うだけでこんなに緊張しているなんてフィーナといい勝負だわ。
くすくす笑う私をみて、アーサーが少しムッとした顔をする。
「それ以上笑うと明日のお昼に迎えに行っちゃいますよ」
明日は土曜日、つまり仕事は休みだ。家でやりたい仕事もあったけど、アーサーの一生懸命さに折れてもいいかと思う自分がいた。
「いいわよ」
「えっ?」
私のあっさりとした承諾にアーサーが驚いた顔をする。
「だから、迎えに来てよね。明日の昼に」
「・・・はいっ!」Screenshot-385.jpg嬉しそうに笑うアーサーはちょっと失礼だけど、犬が飼い主にじゃれるような可愛らしさがあった。
「・・・アーサー。いつまで腕を掴んでるつもり?」
私の腕をいつまでも掴んだままのアーサーを軽く睨む。慌てて手を引く姿がおかしい。
Screenshot-386.jpg「すいません・・・っ!」
「会社戻るわよ。午後もがんばらなくちゃね」
私とアーサーは肩を並べて会社へと歩き出した



昼休みが終わるまでまだ時間があったせいか、オフォスにはまだ誰も戻ってきていなかった。
自分のデスクに戻ってパソコンを立ち上げる。
さっきまで一緒だったアーサーの照れた顔が浮かんできて、私は思わず笑みを漏らす。
(まったく・・・年下に振り回されるなんて、ね・・・)
でも悪い気はしない。アーサーといるとなんだかこっちまで純粋な気持ちになれる気がして。
「ボスの次は年下?」
険のある声が背後から降ってくる。先輩の声だとすぐに分かる。
振り返ると腕を組んでこちらを睨みつけている先輩の姿があった。
「あの子、K大学出てるから目をつけたんでしょ。どこまでも計算ずくな女ね」
K大学はいわゆる天才ばかりがあつまる一流の大学だ。
アーサーが大学を出ていることは知っていたけど、K大学だったことは今初めて知った。
奨学金を貰いながら通っていたってことはよほど優秀だったんだろう。
「先輩も暇なんですね。いちいち人の行動見張ってるんですか?」
この間勝負がついた時点でもうどうでもいい存在ではあったけど、売られた喧嘩は買う性質だ。
「ここ最近ずっとあの子を追い掛け回してるでしょ。嫌でも目に入るのよ」
「先輩も相手みつけたらどうですか?カリカリしてばかりで干物女になってますよ」
我ながら意地の悪い笑みを浮かべる。口喧嘩で私に勝とうなんて甘いのよ。
わなわなと屈辱に震える先輩の後ろから昼休みを終えた同僚が戻ってくる。
「仕事があるので、失礼します」
嫌味なほどのにっこりとした笑顔で言うと私はデスクに座り仕事を再開した。

chapter2

  • 2012/08/08 16:45
  • Category: 雑記
翌朝私はいつものように1時間早く職場に着く。
一人で掃除をして一日の仕事への意欲を高めるこの時間が好きだった。
部屋全体の掃除を終え、自分の机を片付けようとすると引き出しがすこし開いていることに気がつく。
恐る恐る引き出しを開けると入れておいた資料がビリビリに破られ、ご丁寧にインクまでぶちまけられている。
「・・・まるで子供じゃない」
だから女は嫌いなのだ。こうして陰険なやり方で妨害してくる。
でもこれで傷つくとでも思っているのだろうか。おかしくて笑ってしまう。
こういうことをされる度に私には闘志が沸いてくるんだから。



5.jpg「ご一緒していいですか」
注文を終え、料理を待っていると昨日のハンカチ男が爽やかに声をかけてきた。
「悪いけど、ランチは一人でって決めてるの」
時々こうして一人の私に親切心を起こして近付いてくる人間がいる。
だけどそんな親切心は迷惑なだけだ。
はっきりと断らないとこの手の人間は分かってくれない。
普通はここで去っていくのに、この男はちょっと困ったような表情を浮かべて立ったままだ。
ランチタイムで店内が込み合ってきても男はそのまま立っている。
「席がなくなったみたいです。相席にさせてください」
そういうとにっこりと笑って私の返事を待たずに席に座った。
「意外と強引なのね。爽やかな顔してるくせに」
男の強引さに呆れた私は軽くため息をついた。普通の男ならとっくに逃げ出してるのに。
「こうでもしないとイヴさん一緒にランチしてくれないと思って」
2.jpg男が私の名前を知っていることに驚いた。いくら同じ会社とはいえ、社員数も多い会社でセクションも違ってるえば顔は知っていても名前までは覚えていないものなのに。
「どうして知ってる訳?私の名前」
「素敵な人だなあって前から思ってたんです。だから名前くらいは知ってますよ」
歯の浮くようなセリフをさらっと言うこの男の顔を私はまじまじと見つめた。
3.jpgどこか幼い印象の印象の目元につやのある肌。
グイグイと人の中に入り込もうとする性急さから見ても確実にこの男は年下だ。
男の年下なんて面倒くさいだけ。
適当にあしらっておこうと私は余裕の笑みを浮かべる。
「それはどうもありがとう」
私の言葉を聴くと男ははにかんだように笑った。
「お世辞じゃないですよ」
お世辞でもそうじゃなくてもどっちでもいいの。人と会話して頭使うのは仕事中だけにしておきたいのよ。その想いが伝わるようにアイスコーヒーを飲みながら念を送るけど、全然届いてないみたい。
食事が運ばれてきても、目の前の男は私と何とかコミュニケーションを取ろうと一生懸命話しかけてくる。昼休みにそんな気を使ったら疲れるだろうに。
「昨日のこと、聞かないのね」
趣味のことや仕事のことを話し続ける男は昨日のことには一切触れてこなかった。
大体の人間はトラブルがあったら原因を聞きたがるものなのに。
「ああ、僕イヴさんがひっぱたかれて水かけれらる時に店に来たから。原因とか興味ない訳じゃないけどイヴさん、思い出したくないだろうし」
年下の癖に妙に気を使う男だなと思いながら、ちょっと新鮮な気持ちになる。
面倒なことは嫌だけど、目の前の男は話している分にはそう悪くはない。
それと同時にボスと寝たことがこの男の耳に入らなくて良かったと思う自分に少し驚く。
人の目なんかどうでもいいはずなのに。
黙ってそんなことを考えていると男は綺麗に食事を平らげ、ナプキンで口を軽く拭いた。
「アーサーって言います」
4.jpg「・・・え?」
唐突な言葉に思わず聞き返す。目の前の男は最初に見せた爽やかな笑顔で続けた。
「僕の名前。覚えてくれたら嬉しいです」
あまりに明確な好意を見せられて柄にもなく戸惑ってしまう。
下心のある好意なら慣れているし、流すこともできる。でもこのアーサーという男にはそういった不純なものは一切感じられないのだ。
「また会うことがあったらね。その時覚えるわ」
動揺を感じられまいと私はバッグを取り、席を立つ。
伝票をひったくるように取ると、わき目も振らずに精算を済ませ店の扉を開けて外に出た。
外の風が心地よく頬に触れる。
「なんなのよ・・・あの男は」
そう呟きながら会社へと足を向けた。




「また会えましたね」
翌日同じようにアーサーはランチタイムの店に現れた。
私はそうなることを予感していたような、期待していたような気がする。
会うのが嫌なら店を変えればいいことだった。なのに、昨日と同じ店に来て同じ席に座り、店の扉が開くたびに目を走らせている自分に気がつく。
アーサーが現れたとき、慌てて目を手元にある本に落としたくらいだった。
「しつこいのね。おまけに遠慮しなくなってるじゃない」
アーサーはすぐに私の前の昨日と同じ席に腰を下ろした。
「イヴさんに名前覚えてもらいたかったから」
何の小細工もない、直球の言葉が心地よいと感じてしまう。
でもそんな自分を認めたくなくて憎まれ口を叩き続ける。
「それだけしつこかったら誰でもすぐに覚えるわよ。アーサー」
名前を読んだだけで、アーサーの頬は赤く染まる。びっくりするほど純粋な男。
「私ね、悪いけど年下は興味ないの」
意地悪く続ける。
「そんなに歳は変わらないと思います」
「私は26よ。貴方は22,3ってところね」
「23ですけど・・・たった3つしか変わらないじゃないですか」
必死に食い下がってくる言い方がおかしい。
1.jpg「50や60の3歳違いならともかく20代で3歳違うのは大きいわよ」
「・・・イヴさんは年齢で相手を判断するんですか」
ちょっと拗ねたような言い方でアーサーが詰め寄る。
「ちゃんと中味を見るわよ。でも年下はだいたい今のあなたみたいにムキになるでしょ」
言葉を詰まらせるアーサー。
「じゃあ、ちゃんと僕を知ってください。それから判断してください」
真剣な眼差しで私を見つめてくる。それがムキになってるっていうのに。
でも少しだけなら、この男のことを知ってもいいかもしれない。
読みたい本もちょうど全部読破してしまったし。
なんて理由付けばかりしている私はやっぱりアーサーみたいに純粋になれないと心の中で笑った。
「じゃあランチタイムだけ、時間割くわ」
こうして私とアーサーのランチタイムが始まったのだった。

登場人物紹介

  • 2012/08/07 20:27
  • Category: 雑記
Screenshot-371.jpg
名前:イヴ
年齢:26
性格:負けず嫌い。ドライで現実主義。
本館addict simsでDLできるキャラです。(多少お直ししてますが)

Screenshot-377.jpg
名前:フィーナ
年齢:26
性格:優しく穏やかだが、夢見がちな性格。イヴの奔放な生き方に憧れている。

Screenshot-394.jpg名前:アーサー
年齢:23
性格:爽やかな印象の一見草食系男子だが意外と積極的な面も。イヴに片思い中。

Chapter1

  • 2012/08/07 20:18
  • Category: 雑記
ss.jpg
「すいませんが、お話があるなら手短にして頂けますか?新しいプロジェクトで忙しいので」
そう淡々と告げると目の前に座る先輩はワナワナと唇を振るわせた。
「そのプロジェクトを私から取るためにボスと寝たんでしょう」
会社の一大プロジェクトの最終選考に残ったのは私の案と目の前に座る先輩の案だった。
私は先輩の言葉通り、決定権を持つボスと寝て新しいプロジェクトのリーダーの座を獲得したのだ。
「だったらどうだって言うんですか?」
悪びれる様子もない私の言葉に先輩は膝の上で拳を握り締める。
「あなた恥ずかしくないのっ?そんなことで仕事をとったって・・・!」
「勘違いされると嫌なので言っておきますね。ボスと寝たのは仕事を取る為じゃありません。内容で勝負しても負ける気がしませんでしたから」
「じゃあ正々堂々と勝負すればいいじゃないの!!」
ヒステリックに叫んで席から立ち上がる先輩を冷ややかな目で見つめながら私は続けた。
Screenshot-366.jpg
「ええ。正々堂々と勝負したいから先輩と同じ土俵にあがっただけです」
目を見開いて驚きの表情を浮かべる。
私が知らないとでも思った?
「あたしがボスと寝たっていうの?!あたしは貴方みたいな卑怯な女じゃないわ!」
「ボスと寝て仕事を取ったのは先輩ですよね。ボスからそう聞きました」
私は全部知ってるわよ。
男が寝物語にこの先輩の過去の話を全て暴露しちゃったんだから。
Screenshot-363.jpg
「だから先輩と一緒にされること自体嫌なんですよ。先輩はただ仕事が欲しくて寝た、でも私は違う。先輩と勝負するために寝たんですから」
仕事の内容で負けていると思えないのに、いつも私の案は却下されてこの女のつまらない案が起用された。何度悔しい思いをしたことか。
実力以上の評価を貰って威張ってきたこの女の鼻柱をへしおってやりたかった。
「あなたって・・・最低な女ねっ・・・!!」
返す言葉に詰まった目の前の女はついにそう捨て台詞を吐いた。
「好きなように言えばいいわ。勝ったのは私ですから」
Screenshot-365.jpg
「この・・・っ恥知らず!!」
先輩は手を振り上げてしたたかに私の頬を打った。
よろめいて地面に倒れこむ。その私の頭上にコップに入った水をぶちまけると先輩は店を走り去っていく。
ふん。恥知らずはどっちよ。
せいぜい吼えてなさい、負け犬のくせに。
店中の客の視線を感じながら私は床を見つめて微かに笑った。
「大丈夫ですか?」
頭上から場違いなほど爽やかな声が降ってきて私は顔を上げる。
見たことのある顔。声と同じ爽やかな面立ち。
同じ会社で違うセクションにいる男だとようやく気がついた。
「ひどいことするな。立てますか?」
差し伸べられた手を掴んで立ち上がる。
Screenshot-369.jpg
「ありがとう」
同じ会社の人間だと詮索されて面倒なことになるのが嫌で、お礼の言葉だけ述べるとその男はポケットから綺麗にアイロンがけされたハンカチを差し出した。
「使ってください」
「いえ。大丈夫ですから」
へたに係わり合いになりたくなくて断る私の手に男は意外なほど強引にハンカチを握らせてきた。
「このまま店からでたら目立ちますよ」
たしかにそのとおりだった。髪はビチャビチャでスーツのジャケットも水を含んでいる。
Screenshot-367.jpg
断るのも面倒でそのままハンカチはいただくことにした。
「じゃあ遠慮なく。・・・お返しできるかわかりませんからコーヒー代出させてください」
「いえ、いいんですよ。僕はただ・・・」
「ごめんなさい。急いでるので」
ハンカチ程度で今後も何かと話しかけられたりしたらたまらない。
借りは作らず、その場で返すのが私のモットーだ。
隙は作らないに限る。
まだ何かもごもご言っている男を残し、レジで男の分まで精算を済ませ店を後にした。


私は女が嫌いだ。
すぐに群れたがるくせにその群れの中でも表面上は仲良しを演じ、裏では散々にこきおろす。
人の失敗を「大丈夫?」などと心配げに励ますフリをして心の中では舌を出している。
嫌いというより、理解できなくて怖いのかもしれない。
そんな私でもたった一人だけ、信用できる女友達がいた。
それが一緒に暮らしている中学からの友人フィーナだ。
「どうしたの?イヴ、今日は随分塞ぎこんでる」
Screenshot-374.jpg
リビングのソファでぼんやりとしていると、フィーナが隣に腰を下ろして心配そうに見つめてくる。
ふんわりと長い髪。キラキラと輝く瞳。ふっくらとした桜色の唇。
細く白い手先はいつも綺麗なピンク色のネイルが塗られている。
優しくて料理上手で家庭的。
男が「理想の女性」とするのはきっとフィーナみたいな女だろうと思う。
私とは何もかもが正反対。
そんなフィーナとは何故か合い、どんなことでも相談しあう仲だ。
「ん。ちょっと面倒なことがあっただけ」
「仕事のこと?」
「こないだボスと寝たって言ったでしょ?同じことしてる先輩に恨み言言われたのよ」
フィーナには何でも話せた。それはどんなことがあってもフィーナは私のことを軽蔑した目でみないからだ。
でも快くはおもっていない証拠に微かに眉をひそめた。
Screenshot-378.jpg
もうそういうことはしないほうがいいと、思うの」
「私だって好きで寝た訳じゃないわ。でもこのまま実力じゃなくて差をつけられるのが許せなかったの」
きっぱりとそう言うと、フィーナは目を伏せた。
「でもね・・・いつか好きな人ができたら・・・きっと後悔すると思う」
私と同じ26にもなってフィーナはそんな乙女じみたを言う。信じられないことにフィーナは15か16のころの初恋の相手をいまだに想っている、ある意味天然記念物のような所があった。
「好きな人、ねえ・・・。当分私には縁がないから大丈夫」
私が好きになる位の男は女の過去にぐちぐち口を出したりしない人よ、といいかけてやめた。
フィーナにはフィーナの、私には私の価値観がある。
互いの価値観を押し付けあってまで言い合うことじゃないと思い直し、話題を変えるために私は見たくもないテレビのスイッチを入れた。

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